小説 川崎サイト

 

風流人


「風流とは何でしょう」
「風雅とも言いますねえ」
「はい」
「だから、風が関係していることは字面で分かりますねえ」
「はい」
「それで、終わりです」
「え、風が解ですか」
「そうです」
「風って何ですか」
「吹いているでしょ」
「季節に関係しませんか、風流人は季節感を味わうため、野山や海に出たりするでしょ。今頃なら月見とか」
「自然現象と関係しているのでしょうねえ」
「じゃ、風流とは季節ですか」
「分かりました」
「え、何が」
「どうでもいいようなことですよ」
「そうですねえ、あまり実用性はないですねえ」
「季節の花を部屋に差すとかも風流でしょ」
「そうですねえ」
「これの実用性は何となく分かりますが、なくても問題はない」
「ほう」
「花鳥風月を愛でるのが風流なことだと思われます」
「そう思われますか」
「そうです。花流、鳥流、月流じゃ、語呂が今一つ。やはり花鳥風月の風で、風流がいい」
「いいところに気付きましたねえ」
「そうでしょ」
「花、鳥、月は、実際の物ですが風は現象のようなものでしょ。その具体性は空気でしょ。空気の流れ。ここだけが目に見えない」
「そうなんですか、花鳥で一つの言葉ですよ。風月も一つの言葉、だから、四つの言葉じゃなく、二つの言葉なんです」
「ほうほう」
「花鳥だけでも風流ですよ」
「花と鳥ですか」
「花を愛で、鳥の声を愛でる」
「セミでも、鈴虫でもいいのですね」
「そうです」
「風月は」
「そんな饅頭屋がありましたねえ」
「あ、はい」
「花月もあります。これも風流でしょ。花と月を愛でる。風雅です」
「風雅の雅はミヤビでしょ。風流よりもレベルが高いかもしれませんねえ。しかし、風だけがやはり謎ですねえ」
「虫の音、鳥の鳴き声は音でしょ。ここが風と近い。空気を伝わってきます」
「しかし、それらの音は実体が分かっていますよ。しかし風は何処から発生しているのかでしょう。空の気、つまり気圧と関係してるでしょ」
「なるほど、空気ですからねえ。空と関係している。当たり前ですが」
「しかし、やはり花鳥風月の風だけが妙です。一つだけ異質な物が混ざっています」
「これは中華式の分類法でよくあるんじゃないですか」
「そうなんですか」
「しかし」
「何ですか」
「こういうことが、どうでもいいことなので、風流なんですよ」
「あ、はい」
「まあ、非実用と言いますか、浮世離れした行為ですから」
「そうですねえ」
「また、これは逃避というか、難を逃れるための偽装で、風流人になることもあるとか」
「どういうことですか」
「浮き世の揉め事に巻き込まれるのを避けるため、すっと一時的に身を退くようなものです。風流人になれば、警戒されにくいのです。また風流人は欲のない人と思われたりしますからね」
「風には、そういう意味があるかもしれませんねえ」
「悪いときは雲が出てきます」
「暗雲ですね」
「風雲急を告げるなどもそうです」
「勉強になりました」
「しかし、実用性は殆どありません」
「あ、はい。でも国語の試験に出るかもしれません」
「じゃ、今の解、きっと間違っていますよ」
「え、何故ですか」
「今、思い付きで言っただけなので」
「あ、はい」
 
   了



2015年9月4日

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