小説 川崎サイト

 

鰻と松茸


「よく降りますなあ」
「秋の長雨ですよ」
「やっと涼しくなったと思ったら、雨ばかりですよ。カラッとした天高き秋の空を見たいものです」
「この雨で、松茸がよく育つのです」
「本当ですか」
「さあ、聞いた話ですがね」
「松茸、高いので、よく育とうが出来が悪かろうが、あまり関係ないですよ」
「高いですからなあ」
「そうです」
「しかし、雨で困る人もいれば、喜ぶ人もいる。誰かが不幸になれば幸せになる人も出ますよ。これは黙っていますがね」
「しかし、松茸は国産ですか?」
「あるでしょ。国産が」
「鰻なんかは海外のが安いようです」
「ああ、鰻の国産、これは高い。天然物など売っていないでしょ。売り物にならないほど小さかったりしてね」
「松茸と鰻、似てます」
「しかし、松茸の方が高いでしょ」
「いや、形がアレでしょ」
「ああ、そっちの話ですか。それなら松茸の方が似てますよ。まあ、その気で八百屋で見れば、正に陳列ですなあ」
「それより、どうです」
「え、何がですか」
「この雨、あなたは得をする方ですか」
「いや、損というわけじゃないですが、まあ、鬱陶しいですよ。外に出るのが大儀になる。行楽にもいけない。だから、普通でしょ」
「私は雨が降ると仕事が休みなるのです。バイトですから収入が減ります。だから、雨が続くと、どんどん損になる。しかし休めますから身体が楽だ。それで得をするかもしれません。雨が降っていないときは連続して毎日毎日仕事ですよ。これは疲労が溜まる。しかし収入は上がる」
「じゃ、雨で損も得もしていないと」
「まあ、一週間も雨が続くと、流石に休みっぱなしで、身体がなまってきますよ。それに一週間無収入なのは厳しい話になります。だから、長雨は損です」
「この雨一週間目ですよ」
「そうです。だから、もう損です」
「松茸も食べられませんねえ」
「いえ、今年は鰻は食べたし、実は松茸も何度も食べているのですよ」
「晴れが続きましたか。それで収入が増えて」
「いや、今年の盆過ぎから雨が降ってましたから、やや損気味でしたねえ。しかし松茸は何度も食べました」
「ほう、聞きましょう。どうして」
「松茸ご飯ですよ」
「ああ、かけらが入っているやつでしょ」
「そうです」
「まあ、それでも食べたと言えるのでしょうねえ」
「鰻ご飯もそうです」
「鰻重とか、鰻丼じゃないのですか」
「鰻ご飯です」
「それもかけらですか」
「そうです」
「まあ、それでも鰻を食べた、松茸を食べたと言えますなあ」
「そうでしょ。それに私、鰻も松茸もあまり好きじゃないのですよ」
「それは幸いだ」
「松阪肉も松阪で食べました。松阪肉入り肉マン」
「はい、もう結構です」
 
   了



2015年9月6日

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