小説 川崎サイト

 

怖いシーン


「怖い怪談はありませんか」
「怪談はどれも怖いと思いますが、まあ、雰囲気だけの怖さもありますが、怖さにも色々とあり、好みがあるようです。私が怖いと思っても、他の人はそれほどでもなかったり、また、私が何でもないと思って見ていても、非常に怖いと感じる人もいます」
「何でもよろしいですから怖い怪談はありませんか」
「お話しとしては似たような話が多いですねえ。変わった例では状況が怖いとかがあります。これは幽霊もバケモノも異変も起こっていないのに、怖さを感じます。これはレベルが高い」
「もっと単純な話でありませんか。すぐに怖さが出て来るような」
「はい、映像的なことで、驚くような怖さを感じるものがあります」
「映像ですか。じゃ、映画やドラマですね」
「そうです。そのシーンだけが怖かった」
「急に怖い絵が出るやつでしょ」
「そうです。その部類ですが、少し違います」
「幽霊は出ますか」
「出ます」
「じゃ、雰囲気じゃなく、露骨に登場するのですね」
「はい脅かそうと、出ます」
「じゃ、普通じゃありませんか」
「ところが、最初よく分からないのです」
「はあ」
「二人の姉妹が座敷で並んで座っています」
「はい」
「これは本当は三人姉妹で、一番上の姉は死んでいます。残った二人はそれを知りません。用事で旅に出たと思っています」
「はい」
「二人はその長女を殺した男と向かい合っています。だから座敷で二人の少女を、男が見ているようなカメラアングルです。そして、普通に会話をしています」
「それの何処が怖いのですか」
「そのシーンがしばらく続きますが、男が怖がっています。しかも悲鳴を上げるほど」
「何かか起こったのですか」
「既に長い間起こっていました」
「えっ」
「室内は薄暗く行燈だけです。しかし、ドラマなので、それほど暗くはありません。その二人の間に、もう一人座れるほどのスペースがあるのです。最初見たとき、二人の距離が少し開いているなとは思いましたが、気になるような距離ではありません。その二人の間には何もいません。何も座っていません」
「じゃ、どうして悲鳴を」
「二人の後ろです。その隙間の向こう側の家具の並んでいる箇所です。そこにモノクロの人物が座っていたのです」
「そんなの、最初から見えているじゃないですか」
「そうなんです。最初から出ていたのです。しかし、二人の後ろ側なので、やや小さい。それに二人はカラーですが、後ろの一人はモノクロです。だから家具かと思っていたのです。家具など注意して見ていませんからね。男がそれに気付いて、私も気付きました。最初から、そこにいるんですよ。しかし、男が驚いているときも、何を見て驚いているかが分かりませんでした。よく見ると、二人の間にもう一人、奥にいたのです。これは自分で発見したようなものです」
「それが怖かったのですか」
「最初から映像の中に入っていたのに、気付かなかった。だから、いきなり出たわけじゃない。ずっと出ていたのです」
「控えめな出方ですねえ」
「これが怖い。と言うより、その後、このドラマ、映像の隅々まで見るようになりましたよ。何か出ているんじゃないかと。しかし、それは一度だけでした」
「そのモノクロの人が、殺された長女の幽霊だったわけですね」
「そうです、顔がモノクロ以外、怖い顔をしていたとか、幽霊らしい仕草もありませんでした」
「はい」
「この怪談話より、そのシーンが怖かったのです。ゾクッとしました。後ろの黒い物が、幽霊だと気付いたときに」
「はい」
 
   了



2015年9月15日

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