小説 川崎サイト

 

空を見詰める首魁


「体調と気温とはかなり関係するようですなあ」
「かなりですか」
「そうです。先日雨が降りかけの蒸し暑い日に散歩に出たのですが、体調が悪いのか、足が重い。息も弾むし、視界が狭くなるような閉塞感が出ましてね。家に戻ってからも呼吸が整わない。食欲はないのだけれでも腹が減る」
「体調を崩されたのですね」
「大崩れではないが、身体がえらい。しんどい」
「はい」
「ところが翌朝よく晴れており、空気もカラッとしておる。それを見ただけで元気になってきた。気分が先ず違う。曇天を見ているよりもね。抜けるような青空、高いところには鱗雲。赤トンボが眩しい。これは光を反射しているためだ」
「天気が良いだけで、その変化ですか」
「そうだ。そして、いつものように歩いていたんだが、足が軽い」
「すると、体調が悪いときの最高の薬は天候ですか」
「そうなんだ。だから、色々と健康法をやったり、薬を飲んでも無駄なんだ」
「しかし、本当に悪い病気が進行していたのかもしれませんよ」
「体調が戻れば、もうそんなことなど考えない」
「はい」
「その後私は体調が優れないときは天気のせいにするようになった。そして、天気の悪いときは、思った通り、具合が悪い。このときは省エネモードの低速モードに入れることにした。まあ、休憩に近い。横になって、ごろっとしておればいいんだ。ただ慢性の持病があってねえ。これも楽になる季節と、そうでない季節がある。これだけは何ともならないがね」
「これからもお体だけを気にかけながらお過ごし下さい」
「ははは、私の生きる目的は健康状態の維持だけかね」
「いえいえ」
「まあ、私の出番はもうなかろうと思うので、余計なことをしなくても済むが」
「はい、随分と余計なことをされました」
「言うねえ」
「あなたが作られた派閥、今も残っています。これが災いの元凶となったままです」
「あのときは、そうしないといけなかったんだ」
「部外の敵も多く作りすぎました」
「だから、生き延びたんじゃないか」
「そうなんですが、そんなことしなくてもよかったのではないかと、最近話題になっています。検証で」
「派閥を作るのは競い合わせるためだ。それに意見の合わない連中と一緒じゃ効率が悪い。何もできん。部外のライバルを叩きのめしたのは、いずれ害をなすからだ」
「しかし、そのやり方が」
「やるときは徹底的に潰さんと、あとで芽が出る」
「そこまでやる必要がなかったのではないかと」
「じゃ、私は余計なことをしたのかね」
「いえいえ」
「そんなことを言うのなら、カムバックするぞ」
「あああ、それだけは」
「そうだろ」
「はい。健康だけを目的に生きて下さい」
「その方が、君たちも都合がいいだろ」
「はい」
「それで今日も私が妙な動きをしているのではないかと、見張りに来たのかね」
「違います」
「そうか、今日は雲が多い。少し体調が悪くなる頃だ」
「はい、余所見しないで、空ばかり見ていて下さい」
「ふん」
 
   了




2015年9月16日

小説 川崎サイト