小説 川崎サイト



稲妻が走った日

川崎ゆきお



「頭に稲妻が走るときってあるよね」
「病気じゃない」
「そうじゃなく、閃くってこと」
「なるほど」
「こう、何かが再起動したようなショックが走るんだ」
「それで……」
「最近それがないんだね」
「そういう話か」
「君にはある?」
「稲妻は走らないなあ。でも大事なこと忘れていて、ハッとなることはあるなあ。そのとき一瞬真っ白」
「その方向じゃなく、楽しいことでないの?」
「ないなあ、まあ、期待していないからね、だから稲妻は走らないんだ」
「僕は少しはある。欲しいものを見つけたときとか」
「買い物か」
「そう、物欲。そうじゃなく、これは凄いことになるかもしれないなあ、未来が開けるなあ、みたいなネタがないんだ」
「あれば気持ちいいだろうなあ」
「以前はあったんだよ。この学校に決めたとき。稲妻が走ったなあ。あにはからんや、来てみるとこの様だよ」
「兄計らんか……」
「そう、兄も計れなかった展開だよ。まあ、兄との知恵の差なんてあまりないけどね」
「確かにこの学校、夢がありそうだったねえ」
「まあ、だまされたとは受け止めないけどね。それじゃ進路を誤ったと認めることになるしさ」
「漫画学部って、名前だけだったね」
「そうだね、俺達のほうが詳しいじゃん」
「有名な先生、滅多に来ないしね」
「でも、倍率高かったよ」
「これだったら、同人誌で遊んでいるほうがよほど勉強になるよ」
「この中から漫画家出ると思う?」
「なれる奴は何処にいたってなれるさ。偶然この学校にいるかもしれないよ」
「もし出たら、学校の手柄になるんだろうね」
「パンフに書けるからね」
「僕は漫画じゃなく、アニメがいいんだけどなあ。監督がいいなあ」
「俺はプロデューサーだ」
「でも、稲妻が走らないなあ。こういうの夢を勝手に語っているだけで、雑念に近いなあ」
「あ、稲妻がきたー」
「本当か?」
「同人誌、俺達でやろうや」
「おっと、そうこなくっちゃ。やろうやろう」
 
   了
 
 


          2007年2月17日
 

 

 

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