小説 川崎サイト

 

原風景の村里


 鉄道網から外れ、幹線道路も近くにない場所。僻地の条件があるわけではないが、そこへ行くまで、かなり時間がかかることも理由になる。昔、その僻地内だけで暮らせていけた。自給自足というわけではないが、村内や、その周辺では手に入らないような塩などは、行商人などから買っていたのだろう。
 坂井はそこまで奥まった場所にある村ではなく、日本の原風景のような山里巡りをするのが趣味だ。だから僻地過ぎると逆に長閑な風景が望めないので、ほどほどに人の手が加わった田圃の拡がるような場所を選んだ。と言っても江戸時代ではないので、もうそんな風景はなく、どんな辺鄙な村でも、その家の屋根は今風で、道路も舗装されている。山には鉄塔が立ち、電柱があちらこちらに生えている。そこを行き交う村人は、殆どが自動車だ。
 そんな場所でも山々や自然は、ある程度昔のまま残っている。畑がビニールハウスになっても、都会で暮らす坂井にとり、それなりに長閑なのだ。
 その一環として、坂井は日本の原風景が残っている村があることを知る。それはいくらでも残っているだろうし、写真でもよく見て知っている。大概は棚田があり、藁葺きや茅葺きの家が残っていたりする。もうそのパターンを覚えてしまったのだが、それでも場所により、雰囲気が違う。
 東永吉村は知る人ぞ知る場所らしいが、高村はその情報をネットから得ている。そこに掲載されている写真を見て、最初は驚いたが、これはレタッチや合成ではないかと気付いた。坂井も電柱を消したりしていた。
 このネット上の情報が曖昧なのは、何処にあるのかが分かりにくい。ただの写真アルバムのようなウェブページのため、別に日本の原風景を見せるサイトではない。
 ただ、手がかりがあり、そこから推測すると、それほど遠い場所ではなさそうだ。そして思い当たるような場所なのだ。その近くの村へ行った覚えがある。決して山奥の田舎ではない。意外と近い。だから、そのとき、気付いたはずなのだが、見落としたのかもしれない。
 結末を先に言えば、信じられないほど残っていた。二階建ての家より背の高い巨大な水車。そこに伸びるテコのような棒。周囲の山々には鉄塔がないし、道にも電柱はない。当然道は未舗装。まるで明治の頃来た外人が写した日本の村のような風景だ。
 農家が集まっている場所に行くと、怖いほど昔のまま。坂井はそんな昔の農家など知らないので、懐かしいとも思わないが、これはやりすぎではないかと、すぐに感じた。
 それよりも人がいない。村人がいない。
 ここでもう、分かったのだが、ドラマ用のオープンセットなのだ。しかも村ごと。きっとここは廃村後、撮影用の映画村のようなものになったのだろう。しかし一度もここで撮影など行われていなかったようだ。
 あとで調べると、確かに映画のオープンセットで、地域興しの一環だったようだが、利用者がいないまま、放置されたらしい。
 
   了




 


2015年9月25日

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