小説 川崎サイト

 

社長副補佐代行心得


 その会社には当然社長がいる。その上に会長がおり、これは実の父親だ。親が会長で、子供が社長。会社の実権は会長が握っている。それなら会長職など作らないで、その親が社長をやればいいのではないかと思うのだが、社長を盾に使っているのだ。この会社では会長命令というのがない。一番上が社長のためだ。そのため会長の権限は実はないのだが息子の社長は、会長にならないと会社の実権は握れない。一応そういう図式になっている。院政だ。
 重要な事柄は会長の承認がいる。お伺いを立てないといけない。社長には実質的な決定権はない。
 その会長ががトップかというと、そうではなく、その上に父親がいる。社長から見れば祖父だ。会長の上にいるこのお爺さんは最高名誉顧問となっている。
 だから、会長も、その最高名誉顧問にお伺いを立てないと、物事は決められない。
 社長の下に副社長が二人おり、さらに社長代行や、副社長代理など、訳の分からない者がいる。いずれも親族か、縁者だ。当然会長代行や、副会長などもいる。また、名誉会長もいる。この人はまだ学生だ。
 しかし、以上の人達が会社を動かしているわけではない。株は殆どが親族で持っている。この会社の上に、さらに親会社があるわけではないし、巨大グループの傘下でもない。
 会社の創業は古く、世襲制でずっとやってきたのだが、特に優れた人達ではない。今もそうだ。
 それが、この時代も、何とかやっていけるのは、側近がいるからだ。これは名もない社員が会社を支えているという美談ではない。
 その側近グループはおそらくこの社内で親族以外では一番豊かな収入を得ている人達だ。給料ではなく、役得で。
 つまり、本当に会社を動かしているのは側近達で、補佐役の人達なのだ。この数が多い。社長にも、会長にも、そして名誉最高顧問にもいる。殆どのことは、これら側近が動かしているのだ。
 つまり、この一族の縁者よりも、側近衆の方が優れているため、この会社が持っているようなものだ。
 村田は社長副補佐代行心得と、よく分からない職に落とされた。閑職だ。一線から退きなさいという引退勧告のようなものだ。
 それで家族に、実は、この会社、本当に動かしているのは、私達補佐系なのだと、適当なことを言って誤魔化した。
 そして、実際に実権を持っているのは、誰なのかは分からないようだ。そこまで奥の院のさらに奥までは見ていないためだろう。
 
   了




 


2015年10月3日

小説 川崎サイト