小説 川崎サイト

 

身近な宝


 身近なところに宝物があるらしいが、近い場所だろうか。近くというのは近所だ。この近所は結構範囲を広げることもできる。例えば近くの町。近くの市町村。もっといえば近くの国まで拡がる。これはもう外国なので、身近なところと言うには遠すぎるが、世界地図を見ていると、近いことは確かだ。
 身近というのは距離だけではなく、身近な人もいるし、身近な事柄もある。宝物が果たしてあるのかどうかは分からないが。
 幸せの青い鳥というのがある。これはよく逃げたりする。そんなに遠くへ探しに行かなくても、ずっと横にいた鳥がそれだったりする。
 そうなると精神的なものになる。大事なものと常に接しているのに、その価値が分からなかったとかだ。当然その状況では、価値はそれほどないので、価値観が変わったのか、または価値を見出したのかだ。
 宝物というのは金銀財宝のように、宝箱の中に入っているようなもので、価値があるのは効果があるからだ。一生かかっても稼げないような金銀が、一気に手に入る。
 その金額は一生かければ得られるかるかもしれないが、その間使っている。一生分の金額を常に持ち、常に使える状態ではない。宝箱は探し出せば得られる。当然手間暇はかかるが、得ればそのあと楽だろう。
 ただ、宝物を得てからが問題で、使えば減るし、下手に財産を持っていると、災いの元になったりする。
 だから、身近にある宝物とは、もっと精神的なものだろう。そして、これは減らなかったりする。
「また、宝物探しに行くのかい」
 親友の冒険家が宝探しに行くらしい。
「身近なところにあると聞いているが」
「ない」
「そうなの」
「やはり秘境のさらに奥、滝などが落ちている裏側の洞窟とか」
「しかし、旅費も大変だろ」
「いや、物売りをしながら行くんだ。それに、そのための蓄えもある」
「その蓄えで、寝て暮らした方が楽なんじゃない」
「数年は遊んで暮らせるけどね」
「これで何度目だい」
「五回目の冒険だ」
「今回もだめじゃないの」
「今回は宝の地図がある」
「偽物だろ」
「大金を叩いて手に入れた」
「身近なところに宝物はあると言うから、きっと行ってもないよ」
「身近」
「慣れ親しんでいる場所とかだよ」
「探したけどなかった」
「じゃ、慣れ親しんでいる事柄とかはどう。いつもやっていることが、実は宝物だったりするよ」
「じゃ、宝探しがそうだ。これは慣れ親しんでいるし、いつもやっている」
「え」
「だから、宝探しそのものが宝なんだ」
「そこまで分かっていて、ありもしない宝探しに出るのかい」
「ネタがないとね、動けないだろ」
「じゃ、宝とはネタのことかい」
「宝って、やはり値打ちのあるもの。欲しいと思えるものだろ。これは欲だ。従って宝とは欲なんだ」
「よく分からないけど、頑張ってね」
「ああ、今回は汗水垂らして働いたので、旅費も豊富なんだ。かなり楽に行ける。宿屋にも泊まれる。良いものも食える。宝のある秘境は雉ヶが谷って言ってね、雉が多いんだ。雉料理が名物なんだ。これも楽しみだ」
「要するに旅行なんだ」
「まあな」
「君は宝捜しを身近なものにしてしまったようだね。やはり宝物は身近にあったんだ」
「違うと思うよ」
「いや、そうだ」
 
   了




2015年10月7日

小説 川崎サイト