小説 川崎サイト

 

村賊


 何処にでもあるような山に囲まれた小さな村。しかし、この村は地形的に孤立している。お隣の村が結構遠く、山を越えるか、渓谷を抜けて川下へ出ないといけない。
 古い時代の話で、野武士、野盗が闊歩していた。いわば盗賊だが、それらが集団を成して村々を襲った。当然一度襲うと、何年後かにまた来る。村人も警戒し、色々と手を打っていた。それら野盗の大きなものは野伏せりと呼ばれていた。所謂山賊だ。
 そういう野武士が闊歩できる時代は荒れている。領主に討伐するだけの力がないためだ。それどころか、野武士の親分が領主となり、殿様になっている場合もある。当然小さな勢力同士の戦いが多いため、山賊などに構ってられないのだろう。そのため、村人達は自衛することになる。当時の農民は武器を持っており、戦のときは足軽として狩り出されるのだから、兵士と変わらない。
 しかし、城壁も砦もない村を襲われればひとたまりもない。逃げるしかないだろう。
 その山賊が近くの村を襲ったという噂が拡がった。近くまで来ているのだ。
 村人は大きな街道に立ち、旅の武芸者を見付けては助けを求めた。所謂傭兵だ。この地の領主はころころと変わり、今は誰も領主がいない。
 村人の一人が近くの山で山賊の住処を見付けたらしい。そんな屋敷が最初からあるわけではない。キャンプ地のようなものだ。そこを根城にして、近在の村々へ降りてきて、襲うようだ。
 旅の武芸者は山賊の数を超えるほど集めることができた。これなら襲っては来ないだろう。
 この村で、集められた傭兵は三十人とも四十人とも言われている。中には立派な身なりの武士もいたようだが、全員討ち死にしたらしい。
 不思議なことに山賊が襲ってきたという形跡は何も残っていない。ただ、戦ったあとはある。
 傭兵達に何が起こったのかは、他の村人は知っている。同じ様なことをしたためだろう。
 この山賊騒ぎのあと、この村は少し豊かになった。田畑からの収穫ではなく。
 腕の立つ武芸者や浪人も、気をつけて旅をしないといけなかった時代の話だ。
 
   了



2015年10月9日

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