小説 川崎サイト

 

疣切り神社


 市街地から少し郊外へ向かった山裾にイボ切り神社がある。皮膚にできるイボで、デキモノの神様だといわれているが、祭られているのはイボ神様ではない。大黒天だ。しかし、通常イボ切り神社としての方が有名なため、駅名も疣切神社前となっている。
 ここは毎月縁日があり、その沿道は古くからある土産物屋や雑貨屋、食堂や占い所、それに疣切りブランドとして売られている婦人服店などが軒を連ねている。縁日でなくても露店がでているのは、参拝客が一年を通して多いからだろう。
 お参りするとデキモノが治るらしいが、御本尊の大黒天ではなく、その横にある高僧が治してくれる。この高僧は鎌倉時代の人で、今は木造となって座っている。
 木造に触れることで治る。膝が悪ければ木造の膝に触れると治る。最初はイボだけだったが、今はデキモノ一般、皮膚病一般となり、さらに悪い場所なら何処でもよくなった。目が悪い人は木造の目を触る。
 この山裾の神社は桜の名所でもあり、紅葉の名所でもある。シーズンでなくても年中屋台や露店が出ており、毎日が縁日の趣のため、人気がある。
 さて、問題はお触り木造だ。神仏に触れるのは失礼だろう。それに疣痔などでは、尻の穴を触ることになる。流石に座っておられるので尻の穴はないが、腰の下はある。尻だ。高僧は人間だ。食べもすれば出しもする。仏や神よりも坊さんの方が親しみやすい。
 神社に偉いお坊さんの木造があるのが問題なのではなく、昔は一緒に祭られていたのだろう。問題なのはデキモノを治しに行ってデキモノをもらって帰ってしまうことだ。イボの中には伝染するものもある。ものもらいとか言われている。一種のウイルスだ。だから、この木像、細菌やバイ菌だらけなのだ。触る人が多いため、それが付着するのだろう。
 そのため膝の痛みを治しに行ってデキモノを移されたり、風邪を移されたりする。
 神社では毎朝木像を綺麗に拭いているが、消毒スプレーを常にかけるわけにはいかない。
 感染することも問題だが、触られすぎて鼻が低くなり、義眼も触られすぎて、右の目と左の目が違う方を向いているし、たまに裏返ったりする。顔や頭だけではなく、全身至る所禿げており、ミイラのようになってしまった。
 昔はデキモノで亡くなる人も多かったのだろう。
 
   了




2015年10月27日

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