小説 川崎サイト



訪問

川崎ゆきお



 吉岡は消えていった友達のことを考えていた。
 この世からかき消えたわけではない。電話をすれば連絡は取れるし、いきなり訪問することも可能だ。
 三村という男だった。十代から青春時代が終わる頃までよく会っていた。友達よりもより親密な親友ランクの男だった。
 三村も吉岡が消えたと感じているかもしれない。
 会わなくなったのは、合わなくなったためだろう。話が合わなくなってきたのだ。
 吉岡は三村のことをたまに思い出す。しかし、会う気にはなれない。用事でもあれば別だが、それもない。
 いつも吉岡から電話し、会っていたように思う。三村からの誘いはほとんどなかった。
 そのことを特に気にしていなかったのは、連絡を入れるのは吉岡の役割になっていたからだ。
 電話を入れると必ず会えた。三村は断ったことがない。時間がなくても、会ってくれた。
 疎遠になり出したのは徐々にで、ある日を境に頻度が落ちたわけではない。
 若い頃は用事がなくても会える。そのパターンでいくと、年を取るほど用事がなければ会いにくくなる。
 吉岡は思い出したついでに会いに行こうと決心した。やはり気になるのだ。年と共に友達も減っている。三村を復活させ、補給する意味もある。
 出掛けようとドアを開けかけると、チャイムが鳴った。
 まさかと思いながら、ドアを大きく開けると、そこに立っているのは人相の悪い見知らぬ中年男だった。
「ご主人、どうですか?」
 新聞の勧誘だった。
「お断りします」
「ひと月無料なんで、どうですか?」
「訪問販売一切お断りと、表にステッカーがあるでしょ。見なかったか」
「見てませんでした」
「自治会での取り決めだよ。安全安心町作りのね」
「プレゼントもあるんですよ。受け取ってくださいよ」
「お断りします」
「観劇の招待券もあるんですよ」
「お断りしますと言いましたが……」
 吉岡はドアを閉めた。
 それと同時に三村を訪問する気も閉じてしまった。
 
   了
 
 



          2007年2月22日
 

 

 

小説 川崎サイト