小説 川崎サイト

 

晴れの日


「晴れるとすっきりしますなあ」
 三日ほど雨が続く晩秋だった。
「そうですねえ、晴れると元気になります」
「私は特にそうです。雨の日や曇っている日は低気圧の影響で、体調が冴えないのです。要するに鬱陶しい。外に出るのも億劫になり、部屋の中でごろごろしています。同じ姿勢でいると、筋が張ったりします。人は歩行動物で、じっとしているより歩いているときの方がいいのですよ。その方が負担が少なかったりします。それはいいのですが、気分も滅入り身体もだるい。全て雨のせいです。そして今日のように晴れると、全てが解決していたりします。なによりの回復策ですが、これだけはコントロールできない。正にお天気次第です」
「じゃ、今日はお元気そうですねえ」
「しかし、それはしばらくの間で、雨が上がったとき程度です。喉元過ぎれば熱さ忘れる」
「はい」
「今日の講義はこれで終わりです」
「え、短いですねえ。晴れてお元気なはずなのに」
「こんな個人講義、やってもやらなくても同じです。あなた、それで変化がありましたか。学んだことを実行していますか」
「していません」
「そうでしょ、聞いているだけでしょ」
「参考になります」
「参考とは、役に立たないってことですよ」
「いえ、参考に」
「役に立たないので、今すぐ、あるいは将来に渡っても使えないってことです」
「あ、はい。でも興味深いお話しですし」
「興味深いとは、興味がなくもない程度でしょ。興味はあるが、実行はしない。覗いているだけ、見ているだけ、参加しない。もっと言えば意に反する事柄でしょう」
「あ、今の話、非常に参考になりました」
「参考程度の内容しかないわけでしょ」
「いえいえ、だから、少しではなく、非常に参考になりました。使えます」
「ほう、どんな感じで」
「参考になりました。興味深いです。と言う言葉は使わない方がいいことが分かりました」
「いや、これは消極的に否定しているわけでして、露骨に否定するよりも柔らかい。だから、大いに使いなさい」
「はい、興味深いし、参考になりました」
「早速使っていますね」
「あ、学ばなくても使っていたようです」
「学はあっても使い道が悪いと、何ともなりません」
「次の講義ですね。やはり元気ですねえ。一日一つなのに、今日は二つも」
「晴れて気分がいいからです」
「はい」
「ここからハレとケガレについて語っていきますが、如何や」
「それは長い話になりそうですねえ」
「雨でじとじと、これがケガレに近い。空を覆っている雲で、その下は陰。それが取り払われるとハレ。ハレは払う、祓うに通じ、闇を払う。汚れたものを祓う。そしてこれは清めでもあるが……」
「一日二つは、やはりしんどいです」
「そうか」
「はい
 
   了

 



2015年11月26日

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