小説 川崎サイト

 

ホームゴタツ


 ホームゴタツ生活をしている田村は夏でもホームゴタツに入っている。さすがに暑いときはテーブルだけで布団は掛けていない。しかし櫓の裏、天井に当たるところにはヒーターが入っている。当然裸ではなく、網がかかっている。中に赤い蛍光灯のようなものがあるが。夏場はこれを取り出してもいいのだが、面倒なので、そのままにしている。
 秋に入り、寒くなり出すとテーブルクロスほどの薄い布をかける。さらに寒くなるとスイッチを入れる。真冬になってもコタツ布団は使わない。薄いままだ。ホームゴタツ生活者とは、そこで住んでいる人ではなく、部屋にいるとき、一番多く過ごす場所のため、生活の殆どはここで座っているためだ。
 その田村だが、冬に入ると動きが遅くなる。鈍くなる。朝、布団からですぐにホームゴタツに入るのだが、そこからの立ち上がりが遅い。布団からはさっと出られるのだが、ホームゴタツに一度入ると、抜け出せない。これは夏場はそんなことはないので、冬だけの話だ。
 冬になると、冬場のフナのように動きが鈍くなるのだが、これはじっとしているときに限る。しかも暖かい場所で。
 そして、いったんコタツから出ると、動きが速くなる。これは夏場の倍速になる。寒いので動きが速いのだろうか。夏場は暑いので、動き方もだらけているが、冬場は敏速、機敏、何事もてきぱきと動いている。歩き方も早い。
 これでホームゴタツからの立ち上がりの遅さを帳消しにしている。遅れた分、速い動きで取り返しているのだ。当然寒くて体が冷えてくるので、運動をして体温を上げるためだが、早く済ませて寒いところから去りたいのだろう。これは自然にそうなっている。
 このホームゴタツ、ご飯を食べるときには使わない。それは普通のテーブルで食べる。布団の中でご飯を食べるのと同じになるので、それは避けている。ホームゴタツ用掛け物ではなく、テーブルクロスなので、汚しても取り替えればすむことだが、ホームゴタツのスイッチを入れなくてもすむ時期になるまで、外さない。だから、汚してはいけないテーブルクロスなのだ。逆に食事用のテーブルにはテーブルクロスをかけていない。そのため、これはテーブルクロスとして使ってなく、ただのコタツ用の掛け布団の代わりなのだ。
 では冬場、そんな薄いものでは寒いのではないかと思えるのだが、布団を掛けると寝てしまうためだ。田村のホームゴタツは寝床ではない。そこは憩いの場でもあり、温泉でもあり、また仕事場なのだ。寝たり食事をしたりする場を別に持つことで、切り替えている。
 そして、今年も冬がやってきた。ホームゴタツに入り込むと出られないのは例年のことで、煙草一服の休憩が、二服になる。
 このホームゴタツ生活をネットで公開した。ホームゴタツライフホームページで。ここでホームが重なるのが気になったが、気にするほどのアクセスはない。そんなもの誰も見ていないためだろう。
 自分のホーム、これは大事だ。ホームとは家のことではない。常にいるような居場所のことだろう。ホームポジションのようなものだ。
 
   了
 



2015年12月1日

小説 川崎サイト