小説 川崎サイト



携帯ネットショップ

川崎ゆきお



「それも一つの方法だね」
「他にもあるということですか?」
「絶賛は出来ないが、まあ、いいんじゃないか……ですよ」
 叔父の信三は甥の借金返済方法を聞いていた。
 甥の正司は叔父から大金を借りている。
「催促しているわけじゃないんだよ。どういう方針で今やっているのかを聞きたいだけでね。これでも応援しているんだからさ、だから貸しているんだよ」
「また、新しい事業を起きしたいと思っているんです」
「その方法も、一つの方法だが、見込みはあるのかな」
「やってみないと分かりませんが、今ならチャンスかと」
「私はIT関係はよく分からないから、聞いてもチンプンカンプンだと思う。正ちゃんがそう言うのなら、信じるしかない。でもね、他にも方法があると思うんだ」
「あるかもしれませんが、僕としては自信がないのです」
 信三は葉巻に火をつける。子供の頃、落ち葉を燃やし、焼き芋を作ったときの匂いがするようだ。
「ネットショップも携帯の時代に入っているんですよ。今参入するチャンスです」
「携帯で買い物をする人がいるのかね?」
「今までパソコンとは縁のなかった人でも客になってくれます」
「いやいや、それ以上聞いても私には理解出来ないよ」
 信三は携帯を取り出す。
「これで買い物をするのかね。つまり電話するわけか」
「違います。ショップのページへ飛び、そこで商品一覧から選択して……」
「この携帯からでも出来るのか」
 正司は黙った。
「出来ないのか?」
「叔父さんはずっとこの携帯を使っているのですか?」
「外で人と待ち合わせするとき、必要だからね。電話を持ち歩けるのだから、便利だよ」
 信三の携帯は三行しか表示されなかった。
「えーと、まあそういうわけで携帯でネットショップを開き、生計を立て、借りたお金も返していきたいと思います」
「まあ、正ちゃんがやる気を出しているんなら問題はないけどね」
「ありがとう叔父さん」
「ショップが出来たら遊びに行くからね」
「あ、はい……」
 
   了
 
 



          2007年2月25日
 

 

 

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