小説 川崎サイト

 

サンドイッチマン


 雨が降りそうだった。三村は毎朝コンビニでパンと牛乳を買った後、すぐに戻らないで、町内を一周してから帰る。これが日課になっていたのは、家からコンビニまでが近すぎるためだ。そのため、歩いても大した運動にはならないし、気晴らしにもならない。戻ってから急ぐような用事はないためもあるが、朝の散歩が好きなのだ。これはお一人様朝礼をするようなものだ。その日の予定などを一人で報告する。
 また三村は散歩者が散歩をしているような散歩の仕方は好まない。だから、レジ袋を持ち、あくまでも買い物帰りのようなスタイルで散歩する。
 同じところをうろうろしていると妙なので、家とコンビニを結ぶ線上を直角に突っ切る。方角で言えば、南に家があり、北にコンビニがある。ここは幹線道路が走っている。だから、直角の方角、つまりに西か東でいいのだ。これが北だと、またコンビニに戻ることになるので、直角が好ましい。突っ切るとは、可能な限り西か東へ突っ込むことで。帰りは斜めに戻ればいい。最初の押し出しが強いと、かなり遠くまで行くため、戻り道も多彩になる。阿弥陀籤が複雑になるようなものだ。三村はこれを阿弥陀道と呼んでいる。
 さて今朝だが、それを躊躇したのは雨が降りそうなためだ。傘は持ってきていない。冬だが、この時期としては暖かいため、濡れても寒くはない。また、コートを着ているので、多少濡れても問題はないのだが、もし雨に降られると、傘も差さないでレジ袋をぶら下げながら歩いている姿が気になる。
 散歩といっても三十分か一時間程度だ。この時期牛乳はぬるくなりにくいが、冷たい牛乳よりもいいし、サンドイッチなどは冷たいものより好きなのだ。
 一時間以上の散歩になると、さすがに腹が減ってくるため、途中でそれらを食べながら歩く。住宅地の中なので座って食べられるような場所がない。公園はあるが、子供以外入園禁止ではないものの、そこのベンチに座るのは御法度だ。当然、普通の人には見られなくなる。
 そのための偽装としてレジ袋、しかもコンビニ袋をぶら下げている。
 さて雨だが、降るか降らないか分かりにくいが、降らないことに賭けたいと思った。この賭に勝っても良いものが手に入るわけではない。
 実際には先日買ったコートの防水性を試してみたい。
 結果的には雨が降り出し、コートは水を弾いてくれて、大成功だったが、下のズボンがコートからの滴で余計に濡れてしまい、何ともならなくなり、さらにレジ袋の中に水が入り、サンドイッチにまで侵入した。
 三村はきゅっとレジ袋を閉め、コートのポケットに入れたが、三角のサンドイッチが団子のようになってしまった。
 今回も雨に負けた話で、最近連敗が多いようだ。
 
   了



 


2015年12月19日

小説 川崎サイト