小説 川崎サイト

 

龍王の冬籠もり


 龍王は真冬になったので、冬籠もりすることにした。例年そうだ。龍は冬眠するのかという話だが、ただの龍ではない。龍の中の龍、王の龍。だから、龍王。これ以上の位はないが、それが他のものから比べて如何なる地位にあるのかは定かではない。蛙の王や蠅の王ならそのクラスは分かる。大した身分ではない。
 龍の身分だが、これは結構高い。皇帝は龍衣を着る。他に着られるのはその子供達だけ。王子だ。王妃は着られないが、龍の飾り物を付けられる。
 その龍王が冬籠もりに入ろうとしていたのだが、いつもの寝床はあるが、遠い。龍王は人間ではないので、人の住むような里にいては目立つので、自然界の山懐の奥まったところで寝る。
 しかしこの龍王、人里が好きで、静かな場所にいると淋しくなるそうだ。そうかといって里山近くでは見付かる。籠もってられない。
 ただ、龍の冬籠もりは冬眠ではないので、ずっと寝ているわけではない。普段通りの暮らしをしている。つまり活動を停止する程度。巣のようなところに籠もって出てこないだけだが、多少はその周辺にも出現する。じっと同じところに居ると飽きるためと、運動不足で食欲が湧かないためだ。
 龍の中の龍なので、当然他の一般の龍もいる。これは主従関係のようなものができているが、ものは同じだ。つまり、龍王だけが特別大きく強い龍なわけではなく、世襲なのだ。龍を継ぐ、これは王を継ぐという意味でもある。
 伝説に出てくる龍と違い、この龍は飛ばない。雲の間を泳ぐように飛ばないが、水泳は得意だ。この龍の親戚ではないかと言われている竜の落とし子は海にいる。一般に水流と呼ばれているが、実際には別種で、龍の血筋ではない。
 さて、今年も冬籠もりの季節が来たので、龍王は龍王の湯へ行く。龍神温泉とも呼ばれ、これは秘湯のため、誰もその存在は知らない。それは見付かりにくいところにあるのではなく、この世ではないためだ。
 だから龍王の冬籠もりとは、一旦この世から離れて、あちら側へ入り、しばらくは出てこないという意味でもある。
 その間、一般の龍が活躍するのだが、この一般龍が悪い。
 それらの龍は用事らしき用事はないが、たまに少女から呼び出しがかかる。コンタクトを取りに来るのだが、これは選ばれし少女で、繊細だが神経質な美少女が多い。龍に助けを求めに来ている。
 選ばれし少女達はいずれも自薦で、勝手に選ばれたと信じているだけの乙女だ。
 何か悪しきことがあり、龍に助けを求めに来ているのだが、奥山の龍の棲息地近くでコンタクト中、殆ど食べられてしまう。これが実は龍の主食なのだ。
 里の人間は、それを知っており、一般の龍ではなく、龍王に直接コンタクトを取るようになる。人に好意を持っているのは、龍王だけなのだ。
 その龍王とのコンタクトを龍道という。直接訪ねていくのだが、龍神温泉はこの世にはない。だから、そこから出て来るところを待ち受ける。
 しかし、この龍王、願いを叶えるほどの力はなく、少女達は徒労に終わる。そんなことで、解決するほど、世の中、甘くはない。
 
   了

 



2016年1月16日

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