小説 川崎サイト

 

陰風


 陰風、それは冬の北風のことだが、薄気味悪い風ともいう。そうなると幽霊が出る前の生温かい風とは違ってくる。ただ、いつの頃から幽霊の効果音のような生温かい風が吹くようになったのは分からない。何かの物語に書かれていたのだろう。しかし生温かいと冬の北風と矛盾するが、これは空気が全く違うものが欲しかったのかもしれない。
 ぞっとするような空気。体が凍り付くような身の毛もよだつ雰囲気。これは冬場なら、より寒いと言うだけで、性質は同じ。ところが真冬に暖かい風が吹いてくると、これは暖房だろうが、そうではない場合、空気が全く違う。こちらの方が薄気味悪いだろう。ただ、夏場だと、どうなるか。
 夏場に生暖かい風では、それは涼しい風になりかねない。生温かいと暑いとでは、暑い方がより高温だろう。
 風の呼び名は色々あるらしく、船乗り達が使っていた呼び名が浜から上陸し、やがて山奥まで伝わったとか。ただ内陸部でも独自の風の名があるはずだ。
 陰風と似ているが、淫風もある。こちらの風はモロに風俗の風で、いやらしい風だ。風俗は淫らなものだけを差すわけではないが、風潮と言えば、すんなりいくだろうが、この潮も海の人達から来た言葉だろう。
 確かに冬は空も暗いので陰鬱なため、風も陰気に感じる。だから陰風でもいい。では南風はどうか。これはやはり夏の風だろう。それを陽風とは書かないところが興味深い。つまり冬の寒い季節に吹く陰風の方が問題なのだ。
 冬の風で一番有名なのは、木枯らしだろう。これは陸の風、山の風、木の葉を落とす風で、海とは関係がなさそうだ。
 そして風の音とは、この木の枝などが風で唸るような鳴き声なのか。これは木枯らしのイメージで、すぐに冬枯れの木を思い浮かべるためかもしれない。海鳴りも薄気味悪いが。山鳴りとなると、これは風ではなく、地震や山津波だろうか。
 さて、自然現象ではなく、陰風の薄気味悪いタイプの風は人の心を迷わすようだ。これは陰気な雰囲気を受けて、おかしくなる。場所が陰気なのか、本人が陰気なのかは分からないが、本人が陰気な上、場所や対峙するものが陰気なら相乗効果は高いだろう。
 陽気な人は多少陰気な風を受けても、防御力があるのかもしれない。
 南風を常に受けている人は、北風を受けると、ただ単に寒いだけだが、陰風を常に受けている人は寒いだけではなく、身体の奥、気持ちの奥まで、その陰風が染み渡るのだろうか。
 
   了

 

 

 


2016年1月22日

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