小説 川崎サイト



体調

川崎ゆきお



 久しぶりに体調がよい日がある。谷村はそんな日を危険日としている。普通ではないからだ。
 谷村は体調が悪いことを理由にしている。それで何度も会社を辞めた。それ以上務めると本当に体調を崩し、寝込むようなことになるからだ。
 谷村の生き方は単純だ。体調がメインであり、これが全てを制御している。一番上位にある執行機関だ。
 体調が悪いときの解決法は特にない。いろいろやってみたのだが、どれも効かない。体調が悪いことが体質になり、慣れてしまった。だからその日のように体調がよい日は逆に異変であり、危険日なのだ。
 しかし、いくら体調のよい朝でも、夕方頃には戻ってしまう。数日続くことは稀だ。
 一週間ほど調子のよい日が続いたことがある。疾患の原因がいつの間にか取れたのではないかと勘違いし、元気に振る舞った。
 元気だといろいろなことが出来る。自転車で遠距離を走ったり、旧友と飲みに行ったりと。
 遠ざけていた悪友とも再会し、怪しげなビジネスにも加わった。
 活気に満ちた日々が続いたが、ことごとく裏目に出てしまい、動いた分だけ徒労に終わった。そのつけを月末に請求され、体調も元の悪い状態に戻された。
 体調がよく、元気になるとロクなことが起こらない。谷村はそれを何度かの体験で悟った。
 だから体調の悪さは安全装置で、決して悪いことではないと結論を得た。
 しかし、体調のよい日は身体がむずむずする。何か活動的な動きをやりたくなる。
 谷村はその気持ちを何とか押さえようとした。最近、こんなよい日は二日と続かない。だから、何かをやり始めても三日目にしんどくなり、中断するはずだ。
 しかし、二日目の朝も元気だった。さらに三日目、四日目も元気だった。
 谷村は不安になってきた。このまま元気な状態が続くととんでもないことになる。
 そして一週間後、体調が戻った。つまり悪い状態に戻ったのだ。
 谷村はほっとした。これで安定した精神状態が維持出来る。
 危機を乗り切ったのだ。
 今度体調がよくなったときが心配だが、次も乗り越えられると信じるしかない。
 そして谷村の平和な日々はまだ続いている。
 
   了
 
 


          2007年3月3日
 

 

 

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