小説 川崎サイト

 

覇者


 創業者の田村には盟友がいない。そんなものは必要ではないのだが、消えてなくなると、淋しいものだ。今頃どうしているのかと、少しは心配している。
 一国一城の主となり、その業界ではトップクラスだが、一人で作ったわけではない。多くの仲間達がいた。同士というわけではないが、田村を旗に集まってきた連中だ。まだ若く、そして貧しかった。田村の旗に集まれば一旗揚げられそうだった。
 しかし、事業が上手く行きだし、規模が大きくなるに従い、同士は消えていった。田村が切ったのだ。
 そして最後まで残った右腕と左腕の盟友を処分した。処刑ではないが、追い出した感じだ。もう必要でないどころか、創業以来の重鎮は扱いにくいのだ。さらに、社内で派閥を作り、一つの勢力となっていた。下手をすると、田村自身が追い出されかねない。
 ベテランの同士を失ったのだが、田村がいなければ、ただの無頼漢や詐欺師のままだったろう。業界で勢力を伸ばしている間はよかったが、伸ばしきると、もう必要がないどころか害になる。
 田村は若い頃に結婚しているが、事業が軌道に乗ったとき、妻の父、つまり舅や義理の兄弟を社から追い出している。決して親族で固めるタイプではなく、むしろ切っている。また大した実力もなかった。仮にあったとしても、余計に追い出していただろう。これは息子が二代目を継いただあと、義理の父や義理の兄弟を警戒したため。
 創業当時からの幹部は会社が大きくなると、脅威になる。田村はうまくそれらを処分したため、そのことでの内紛は避けられた。
 特に昔からの幹部、一緒に汗を流し、同じ釜のめしを食べた連中は部下と言うよりも、家族で蟻、仲間であり、盟友だった。
 王とその直系の血筋だけが生き延びる。これは田村が若い頃学んだ帝王学。そのため最初から切るつもりだった。
 それは全て息子に苦労なく継いでもらうため。しかしこの帝王学が崩れたのは、二代目が思っていた以上に出来が悪かった。
 そして息子の嫁がまたいけない。この嫁の親戚筋は、さすがに切りにくい。しかし、このままでは息子ではなく、その嫁とその縁者が実権を握るだろう。
 田村は長男ではなく、次男に継がそうと、次男に有力なポストを与えた。そういうのは丸見えなので、兄弟間の争いに発展しかけた。
 そんなごたごたの折、この業界の成長は止まり、徐々に景気が悪くなってきた。生き残るだけでも大変な状況になっている。それに、田村も年だ。
 結局、帝王学も上手く行かず、他社に吸収される感じで、社を売った。これ以上こじらせたくなかったためと、もう田村には覇気が残っていなかったのだ。
 そして田村一族は、今はそれなりに優雅に暮らしている。
 しかし心に残るのは切り捨てた盟友達のことだ。そうまでして守りたかった田村王国なのに、今はもうない。
 
   了

  

 



2016年2月11日

小説 川崎サイト