小説 川崎サイト

 

毒男と薬男


 何でも無いものから何かを見出すというのは、余程ネタが無いのだろう。大人しくしている何でも無いものを波立て、荒立ててしまう。そのままではきっと何でもないままで、平和なものだったに違いない。
 しかし、世の中には何でもないものなどない。何等かの因果関係や、繋がり、色々な事情で、それがある。ただ、今は大したものではなく、何でもないものとして、大人しくしている。
 だが、弄くれば、色々と物騒なものが出てくる。
 重箱の箱田と言われている嫌な男がいる。重箱の隅を突く悪意のある男だ。当然誰からも嫌われている。下手なことを言おうものなら、色々と詮索されるため、迂闊に話もできない。職場では毒男とも呼ばれている。非常に細かいことにこだわるため、仕事をさせればきめ細かく丁寧なので、上からは評価されている。
 箱田は最初は小さなことでイヤミを言ったりする程度だったが、徐々に調子づき、毒舌となり、つまり毒を吐く毒男にレベルアップした。
 しかし、世の中よくしたもので、自然界のように天敵がいる。毒男の天敵は薬男だ。これは薬を飲み過ぎた男ではない。人の心の病を治してくれる男で、所謂癒やし系。そのためこの薬男は別名癒やし男とも言う。卑しい男とではないが、その面が少しはある。この職場には女性はいないので、他では毒女、薬女もいるだろう。
 箱田は薬男の富山を苦手とした。毒づいても効かないのだ。箱田が何を言っても、富山は優しく包み込む。この包み方が赤ちゃんをあやすような感じのため、箱田はついつい心を許してしまいそうになる。だから、張っていた気が緩みそうになるので、苦手とした。吐き出そうとしてた毒を飲み込むようなもので、ダメージが自分に来る。
 しかし、上司は毒男を評価していた。それは部下に対して言いたいことを、この毒男が変わって言ってくれるためだ。しかもえげつなく鋭利に。そしてダメージを与えるほどの強烈さで。ただし、この箱田、上司にも毒づく。
 一方薬男だが、上司は評価していない。職場がやわらぐが、コミュニケーションばかり良くなり、馴れ合いになる。そしてミスが多くなる。
 だから上司は本当に害をもたらす毒は、この癒やし男、薬男だと暗に分かっている。
 しかし毒男を擁護すると、それこそやり放題になるため、その押さえとして薬男も大事にしている。
 毒は薬にもなるし、薬は毒にもなるという単純な話だが、世の中そこまで分かりやすくはできていない。
 
   了


 


2016年3月12日

小説 川崎サイト