小説 川崎サイト

 

目覚め


「目覚めが大事です。目覚めが」
「はい」
「朝、目が覚めたときのね。物事に目覚めたとか、そっちじゃない。もっと具体的だ。従って毎朝目覚めていることになる。昼寝からの目覚めもあるので、目覚めの数は非常に多い。だが、その目覚めが大事なんだ」
「寝起きの問題ですか」
「そうだ。これは肉体的なことだけではない」
「他に何か」
「目が覚め、意識が戻ってくる。まあ、気絶していたようなもので、意識は一時途絶える。考え事をしながら寝ていても寝てしまうと中断し、もう考え事などしていない。あとは夢のお任せだ」
「はい」
「意識が戻ってきた初っぱな、これが大事なんだ」
「すぐにトイレへ行きますが」
「それもあるが、また起きて面倒なことの続きをしないといけないのか、などで目覚めたくなかったりする。また今日は楽しみにしていた物が宅配便で届く日だと、さっと起きる。楽しい日になりそうだからな」
「はい」
「春夏秋冬、目覚めの悪い季節もあるが、調子のいい日々というのは目覚めもよろしい。これは当然体調も良好なときで、いつものような日を過ごす場合も、特にプレッシャーはない。苦しくはない」
「あのう」
「何だ」
「何が言いたいのでしょうか」
「言いたい?」
「はい」
「別に青年の主張をしておるわけじゃない。年寄りが感想を述べておるだけじゃ」
「要約すると、良いペースで生きている人は、朝の目覚めもいいんでしょ」
「そうだ。これは体調とば別のところで、決まる」
「でも朝、目覚められるだけ、いいですよ」
「どういうことだ」
「そのまま永眠ということもありますし」
「それは楽でいいではないか。極楽往生じゃないか」
「そうですねえ」
「私が言いたいのは、この目覚めの良さは日頃の心構えで決まる。日頃の行為で決まる。悪いことをすると目覚めの悪いことになる。だから生きている間はこの目覚めが目的となる。いい目覚めなど大したことではないが、ここで計測できる。日頃の行いがな」
「成果は目覚めに出ると」
「そうそう」
「しかし目覚めが良すぎると朝からテンションが高くて、血管が破れそうですが」
「だから目覚めの良さの、その良さの質が問われる」
「はい」
「仏様のように静かに起きるのがいい」
「今、仏像が布団からムックと出て来る絵が出ました」
「その涅槃の境地は無理としても、当たり前のように起き、一日を始める。決して布団の中でグズグズしない」
「されているのですか」
「たまにな。これはまあ体調が悪いときはそうなるし、また起きる直前に嫌な夢など見て、それこそ夢見が悪い朝もある」
「はい」
「物事の本質よりも、そういった朝の目覚めの良し悪しに結果が出る。ここを見ておけばいい」
「見ているだけですか」
「それを目安にして、心がけや行動を修正するのじゃ」
「面倒臭そうですが」
「まあ、目覚めの悪さは何かの警告。きっと反省すべきことがあるはず。それを知るだけでもよろしい」
「はい、有り難うございました」
「君が素直に聞いてくれたので、私の明日の目覚めはいいだろう」
「あ、はい」
 
   了



2016年3月14日

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