小説 川崎サイト

 

パンとコロッケ


 店屋が並ぶ通りの手前で吉田は旧友と出合った。二人共同じような服装をしている。安っぽいジャンパーとスニーカー。同じ衣料スーパーで買ったのか、見覚えがある。色が違うだけで、そっくりだ。靴もスポーツシューズだが、形だけ。一足千円の店で買ったのだろう。これもタイプ違いだが、色目がどちらも派手だ。
「おかずがねえ」
「おかず」
「ああ、夕食のね」
「買いに行く?」
「そうそう、今行くところ」
「私はパンにしたよ」
「ああ、パンか」
「作るのが面倒なとき、パンを買うんだ。ウインナーとか一寸おかずの入っているのを選んでね。一つ百円なんだ。どのパンも。私は必ずサンドイッチを買うねえ。これも百円。あと二つか三つ買う。その中の一つはアンパンやカレーパンだけど、これはまあおやつだ。全部食べきれなかった場合、翌日のおやつにもなるしね」
「僕もパンにしたいんだが、夕食でパンだけでは味気ない。コロッケでもいいから、皿におかずを乗せて、ご飯を食べたい。キャベツは買い置きがあるからコロッケだけを食べるんじゃないよ。トマトもあるし。これを西洋皿に盛り合わせると、洋食なんだ。しかし最近胃の調子が悪くてねえ。生野菜とか揚げ物は実はだめなんだ。しっかりと煮たものでないとね。大根とか椎茸とかフキなんかもいいねえ。そこに高野豆腐か油揚、または厚揚げが一番いい。厚揚げ入りの野菜の煮物。これが一番いい」
「あ、そう」
「胃の調子が悪いとねえ、腸かもしれないけど、調子が悪い。それで食べるものを変えたんだ。さっき言ったような野菜の煮物や魚にね。すると調子が良くなってきた」
「魚は高いでしょ。缶詰かい?」
「いや、あれは出汁がいけない。汁がね。鮭がいい。タラコは魚じゃないけど、魚の子だから、これも食べる。生ワカメと一緒にね。ワカメは刺身用のを食べるんだが、生じゃなく、これも味噌汁に大量に入れて煮る。ワカメ汁って、これは漢方薬のようなものなんだよ」
「あ、そう」
「それで体調はすっかり戻り、胃腸も元気になったんだけど、華やかさがない」
「え」
「だから、おかずに賑わいがない。野菜の煮物、厚揚げ、豆腐じゃねえ。やはりトンカツ、コロッケ、天麩羅、こういうのが欲しくなる。今日はそのときが来た」
「何が来たの」
「だから、極まってしまい、今日はトンカツは高いので無理だが、コロッケを買うと」
「か、買えばいいじゃないか」
「だから、これから買いに行くところだよ」
「そうか。私はパンにしたから、戻ってからテレビでも見ながら囓るだけ。皿も何もいらない。箸もいらないしね」
「パンもいいなあ」
「おっと、長話になった。日が暮れきってしまう」
「ああ、行ってくるよ」
 昔はこの二人、営業畑でしのぎを削り合う仲だったが、今はその面影は何もない。
 
   了


2016年3月26日

小説 川崎サイト