小説 川崎サイト

 

黄泉路


 筒が峰から黄泉路へ至ると案内版にあるので、竹田はそちらの道へと入った。筒が峰は見えている。猫の背中のような峰だ。そこを越え、山を曲がり込んだところに黄泉路があるらしい。方角的には山は深くなる。
 黄泉路らしい入り口があり、谷に沿って伸びているが、薄暗い。いかにも黄泉の国、根の国へ向かうような山道だ。そこにも「これより黄泉路」と書かれている。その横に、もう一つ木札があり、常世道と書かれている。同じ意味だろうか。
 歩くうちに谷は深くなり、やがて川が見えなくなる。渓谷が深すぎるためか、道が作れなかったのだろう。急に登り坂になっていることから、川底から一旦離れて、中腹あたりに出るようだ。その道が下からでも見える。
 中腹沿いのくねくねした道が続くのは、できるだけ急勾配をなくすためだろう。時間はかかるが、足や息は楽だ。
 やがて山を越えるのか、真っ直ぐに延びた坂がある。ここは一気に登れということだろう。その下に黄泉坂と案内板がある。板でできた粗末なものだ。さらに横の木の幹にも黄泉の坂と刻まれ、その溝にペンキでも流し込んだのか、こちらの方がはっきりと読み取れる。
 黄泉坂は下へ続くのかと思っていたのだが、登り道だ。ここも含めて黄泉路というのだろうが、その先は青い空が拡がっているだけ、峠だ。それでも左右に高い山があることから、一番越えやすい場所を選んだのだろう。
 案の定峠に上がると、黄泉峠と書かれている。山を越えたわけだが、その先は、高い連峰が連なっているが、真下を見ると盆地だ。昔なら国境を越えたようなものだろうか。
 今度は下り坂だが、もう黄泉や、常世の案内板はない。道は真っ直ぐ下界まで続いている。まるで、スキーのジャンプ競技場のように。
 そして来たとときの川と道は合流し、沢伝いに盆地へと出る。相変わらず、そこは樹海のように暗い。こちら側からの案内板は何もないが、ハイカー向けに筒が峰に至とだけある。
 黄泉や常世は、地面の下ではなく、空を向いていた。これが海岸沿いなら、海の彼方を向いていたのだろう。いずれも、遠い場所のことだろうか。
 ちなみに黄泉の、この黄色は、地下を流れる川の水が黄色いため、黄色い泉の湧く国と言うことらしいが、地下が深すぎると、鉱物の関係から、そんな色になるのだろうか。温泉かもしれない。
 山深い場所では、黄泉も常世も空へと抜けるのだろうか。ちなみにその黄泉路、道だけしかないのだが、この世と繋がり、行き来ができるのかもしれない。
 
   了


 


2016年3月31日

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