小説 川崎サイト



リアルな夢

川崎ゆきお



「夢を見たんだけど、おかしいんだ」
「はあ?」
「記憶にない場所が出てくる」
「今、そういう話をするんですか? いや、やっていいんですか?」
「いいんじゃないですか。誰も見ていないんだし。それに退屈でしょ」
「私語のことじゃなく、話題として……」
「夢の話がまずいの?」
「いきなりなんで」
「そうだね。突然夢の話、やるもんじゃないな」
「いいですよ、私は。続けてください。聞く体勢が出来ましたから」
「そんな身構えなければいけないような話じゃない。記憶の問題なんだ。夢の映像って、一度見たものの組み合わせだろ」
「そうなんだ」
「そう、だから記憶にない映像が見える夢って不思議じゃない?」
「忘れているとか」
「何を」
「経験した映像を」
「いや、この場合、違うんだな。体験しようのないような場所や人物が出てくるんだよ」
「じゃ、テレビとか絵とかで見た映像では?」
「それが思い当たらないんだ」
「どんな映像なんです?」
「江戸時代かな。これって体験出来ないだろ」
「時代劇で見た世界では?」
「今まで、あんなリアルな時代劇なんて見た記憶はないんだ」
「リアルなんですか」
「そうそう、ちょんまげとか、着ているものとか、全然違うんだな。そんな時代劇、見たことないし、そんな映画もないと思うな」
「マゲとかは、まあ、カツラでしょうから、見たことのないカツラなんですね」
「だから、カツラじゃないんだよ。境目が見えない」
「なるほど」
「つまり、作り物じゃないんだよ。それは夢の中でもはっきり分かった。もちろん侍も、見たことのない俳優だ。きっと俳優じゃない」
「そのまんまの侍なんですか」
「ナマだと思う」
「分かりました。それは……」
「それは?」
「前世の記憶ですよ」
「じゃ、その記憶は何処に保存されていたんだ?」
「魂の中じゃないですか」
「前世とか、魂か……。もう少し、違った解釈はない?」
「すみません。これで精一杯です」
 
   了
 
 


          2007年3月9日
 

 

 

小説 川崎サイト