小説 川崎サイト

 

足軽


「足軽?」
「足軽がいません」
「足軽って、昔の戦のときの」
「そうです」
「今は戦国時代か」
「違いますが、色々と案があるのですが、足軽がいないので、何ともならないのです」
「案」
「やりたいことです」
「あ、そう」
「足軽とは、足が軽いということです」
「そうなのか」
「最前線で軽快に動く兵です」
「まあ、字面からすればそうだが、軽輩の戦闘員だろうねえ。つまり一番身分の低い侍。いや、侍ではないかもしれない。駆り出された農民が大部分だろう」
「その足軽がいません」
「つまり、手足になって戦ってくれる最前線の部下がいないと」
「必ずしもそうじゃないのです。一人で戦うことが多いので、自分の中の足軽です」
「あ、そう」
「つまり、足が重いのです」
「それで足軽」
「はい、足重なので、足軽がいない」
「それはどういう意味かな」
「侍大将ばかりで実際に動く兵隊がいないのです」
「指揮官だけっていうことだね」
「そうです。指揮官は足軽を指揮します。指揮官自らは戦わない」
「そうなの」
「昔は軽快に動けたのに、今は足が重くて、何もできません」
「ほう」
「足はあるのですが、重いのです。足軽じゃない」
「うむ」
「だからいくら名案が浮かんでも、動けなくなりました」
「それは困ったねえ」
「だから、足軽がいなくなったときが潮時かと」
「ほう」
「どうせ何か作戦が思い浮かんだとしても、実際には動けないわけですから」
「指揮官自らが動けばいいじゃないか」
「実践は足軽の仕事で、指揮官の仕事じゃありません」
「分ける必要はないだろ」
「足が重いので、実際には動けないのです。指揮官も」
「そうか、指揮官は最初から足が重いか」
「足がありません。頭と指揮する腕がある程度、動かしているのは腕と口だけ」
「じゃ、指揮官を辞めて、足軽になればどうだ」
「私が身分の低い足軽にですか」
「そんなものに身分も何もない。立場の違い、仕事の中身の違いだけ」
「そうか、私が足軽になればいいんだ」
「それで行きなさい」
「しかし、元々足が重いので、非常にレベルの低い足軽になりますが」
 彼はそれで足軽になったが、雇ってくれる武将は誰もいなかった。
 
   了

 


2016年4月12日

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