小説 川崎サイト

 

ノートのゴミ


 ノートパソコンのモニターの汚れが気になる。このタイプのことは些細事で、そのままにしておいても、別段困らない。文字の上にそのゴミが乗っている場合、多少読みにくいが、ゴミであることが分かっているため、ゴミはないものとして扱っている。これも扱い方が難しいことではない。ただのゴミか埃で、吹けば飛ぶかもしれない。
 ゴミや汚れはモニターの液晶だけではなく、キーボードの谷間にもあるが、これはさらにその隙間にまで入り込んでいるかもしれない。さすがにキーボードの頭にはゴミはないが、汚れがある。特によく使うキーは色が違う。指の油などが付着しているためと、擦りすぎのためだろう。
 拭けば取れるような汚れやゴミ、溝に溜まったゴミも刷毛でかき出すなり、逆さにすれば落ちるかもしれない。
 田村がこのことを気に掛けているのはノートパソコンを開けるたび。だから常に気にしているのだが、何も対処していない。このパソコンを誰かに見せるわけではないため、誰も田村のノートパソコンの汚れを知らない。知っているのは田村だけ。
 田村は充電以外では自分の家ではノートパソコンは一切触らない。出先でしか使わない。その出先でノートパソコンの掃除をする気にはなれない。それよりも急ぎの用件を片付けたりする方が大切で、パソコンが故障しているのなら、色々と触るだろうが、ゴミ程度、汚れ程度なら実用上困らない。
「田村君」
「はい」
 誰も他に見る人がいないはずなのだが、所長が見た。偶然後ろに来て話しかけてきたときだ。ノートパソコンが丸見えになっていた。バックを取られたのだ。これは滅多にない。いや、これまであったかもしれないが、そんなことなど、いちいち覚えていない。
「掃除、したらどう」
「え」
 田村はいきなり所長が何を言い出したのか分からないような間の抜けた声を出したが、ノートパソコンの汚れを言ってるのは承知している。
「一事が万事。そういう人だと思われるよ」
「あ、気が付きませんでした」
 田村はこの自分のノートパソコンでしっかりとした表を作り、しっかりとしたレポートなどを提出している。非の打ち所のない仕事で、その几帳面さは評価されている。しかし、ノートパソコンが几帳面ではない。
「ずっとだ」
「え」
「君のノート、ずっと汚い。買ったときから一度も手入れしていないだろ」
 所長はやはり見ていたのだ。後ろに付いたとき。
「誤解があるといけないから、掃除をしておきなさい。これも仕事だ」
「はい」
 田村はそのあと、すぐに掃除を始めたのだが、少し水を含んだ布で拭いた方が早いので、そうしたのだが、その水が何処かに浸みたのか、パソコンが動かなくなった。
 電源を入れても画面は真っ黒なまま。しかし、実際にはゴミとか埃で、真っ黒ではない。星空でも見ているように、一等星や星雲まで見えたりした。
 
   了

 



 


2016年4月14日

小説 川崎サイト