小説 川崎サイト

 

悪しきものの接近


 昼寝から覚めた宗田はいつものように散歩に出た。寝起きが悪い。目覚めが悪いのではなく、起きたとき身体が重い。何となく元気がない。昼寝は小一時間ほどで、半時間のときもある。また、うとっとしただけのこともある。今日はたっぷりと寝たはずだ。そのため、頭も身体もしっかりと回復しているはずなのに、寝る前よりも悪くなっている。何か悪い夢でも見たのではないかと思い出そうとするが、何も出てこない。
 本当にしんどいのなら、もう少し寝ていたいだろう。しかし、すんなりと起きている。昼寝としては完璧で、予定通りの小一時間。こういう昼寝後は調子が良いはずなのだが、そうではない。
 散歩は自転車で近所のお気に入りのコースをゆるりと走る。歩道のタイルの継ぎ目が頭にがつんがつんとくる。
 これは何か近付いて来ていると、宗田は気付いた。前から何かが来ているとか、後ろからそっと近付いて来る何者かではなく、遠方、あるいは別空間からの何かだ。そこに果たして空間があるのかどうかは分からないが、亜空間のようなもの。別次元、異世界からそれが来ている。しかし別世界ではなく、同じこの世の誰かが近付いて来ているとみるほうがよい。きっとそれは人で、知っている人かもしれない。これが何か悪しきことをもたらす。だから、路上の前後左右から近付いてくるものではなく、何処かで接触するのだろう。散歩中なら、この道の何処かで。
 しかし、該当する人はいない。例えば悪しき友とばったり合うとかだ。もしそんなことがあっても、相手にしなければ、問題はないし、そんな友はいない。
 ということは悪しきことを招き入れる未知の人と接触するのだろうか。
 宗田は前方を見る。後ろから来た自転車が追い抜いていき、その先に普通に歩いている人が何人かいる。かなり向こう側まで見るが、ただの人達だ。そんな人達と絡むことは先ずない。用事がないためだ。
 すると歩道に突っ込んできた車両とぶつかるのだろうか。しかし、それでは因果関係があまりしっかりとしていない。目覚めの悪さ、不調さとは関係なさそうだ。もっと運命的な、宿命的な事柄のはず。
 しかし、しばらく走り、いつもの散歩コースの後半まで来たとき、体調は戻っていた。
 やはりただ単に寝起きが悪かっただけのようだ。
 
   了

 


2016年4月16日

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