小説 川崎サイト

 

変化


「最近何か変化はありませんか」
「変化ねえ」
「一寸変わったこととか」
「一寸か、それなら僅かなので、変化とは言えないかもしれない」
「何かありましたか」
「いや、言うほどの変化じゃない。昨日よりは暖かいとか、昨日は晴れていたのに今日は雨だとか。こんなこと、いちいち言う必要はないでしょ」
「そうですが」
「つまり、ある変化が重要な意味を持つとか、その種類の変化を聞きたいわけでしょ」
「いえ、挨拶代わりですよ。最近お変わりありませんか程度です」
「犬じゃあるまいし、おかわりねえ」
「はい」
「すると、変化がないことはいいことなんだ」
「そうです」
「しかし、徐々に変化しているのかもしれませんよ。気付かないだけで、じわじわとね」
「はい」
「ある日、その変化に気付く。変化の兆しはあったのに、それに気付かないままね」
「変化する前に、変化の兆しがあるのですか」
「あります。これも変化ですが、変化だとは意識していない。それを取り上げない」
「はい」
「気付かないうちに、ではなく、何となく気付いているのですよ」
「変化の兆候を無視していると」
「気にならないだけですよ」
「はい」
「それよりも、変な化け方というのがありましてね。こちらの方が興味深いですぞ」
「変な化け方」
「見慣れたものが、変な変化をしている」
「変な変化」
「正常な変化もありますからね。まともな状態に変化したのなら、これは変な変化じゃないし、化けたとは言わない。化けたとは、悪い方、あまり芳しくないものや、ややこしい状態に出てしまったとき使うことが多いですなあ」
「その変わった変化とは何ですか」
「予想だにしなかったものに変化している」
「それはいいことですか」
「いいふうに化けることもあるが、大概は妙なものに変化していることが多いですなあ」
「それは化け物の話ですか」
「化け物などいませんが、その行為というか現象はあるでしょう。人が人に化けると、これは化け物じゃない。どちらも人ですからね」
「確かに人も変化します」
「化け物にはならないでしょ」
「はい」
「しかし、おかしな変化の仕方をした人は化け物じみて見える。元を知ってますからね」
「はい」
「変化前のその人のことを知らなければ、化けたかどうかも分からない。最初からそんな人だと思う」
「はい」
「だから、一寸した変化程度が良いのですよ」
「では、あまり変化がないほうが好ましいと」
「そうです。変化しすぎると、化け物になりますからね」
「はあ」
「それは言いすぎですが」
「変化を楽しむというのはどうですか」
「それはありますなあ。やはり何処かで変化を求めているのでしょうなあ」
「度合いの問題だと」
「まあ、変わらぬものの方が価値があったりしますよ。変えなくてもまだ価値があるからです」
「長持ちする価値ですねえ」
「変わらないもの。これは世の中に何一つないのですが、これも程度の問題で、長いか短い程度でしょうなあ」
「はい」
 
   了

 
 


2016年4月25日

小説 川崎サイト