小説 川崎サイト

 

座敷牢


 一寸郊外に出ると大きな家がある。屋敷といってもいい。敷地が広いため、ゆったりと建てられるのか、または住む人や出入りの人が多いためだろうか。使用人なども一緒に住んでいそうな。
 高橋はいつものように、曰くありげな建物や、場所を探し歩いているのだが、今回は角度を変え、その内部に注目している。それは間取り。
 これは通りからでも雨戸の数や窓から、ある程度の間取りが分かる。また二階がある場合、廊下で振り分けられているのか、あるいは一間が続いているだけか、などと、正面や横から箱を見るように覗き込んでいる。
 塀は屋敷を囲んでいるのだが、ただの壁ではなく、中に構造物、つまり納屋とか、馬小屋のようなものとか、人が住める長屋風のものなのか、それも気にしている。そして、目玉は倉だが、外から見ることができる塀のような倉ではなく、内倉が気になる。これは中庭などにあり、外と面していない。また倉は二階建て程度の高さが多いので平屋の倉は結構怪しい。
 何を嗅ぎ付けようとしているのかというと、座敷牢だ。これはそれなりに大きな屋敷にはあったようだ。今ならドアを外から鍵でかければいいが、普通のドアなら内側から開くはず。だから、南京錠などで、外からしか開けられないようにする。
 座敷牢になると、和室の座敷を牢にする。時代劇に出てきそうな格子で檻を作ったのだろう。座敷牢なので、畳敷きか板敷き。土間では囚人。座敷牢に閉じ込めるのは囚人とは限らない。そこが微妙だ。
 この個人向け座敷牢が禁止されたのは最近のことらしい。
 倉を座敷牢にしてもいいのだが、外に面しているものが多い。これは倉は自慢のためだ。見せびらかしているようなもの。また倉には窓があり、声を立てれば、外に聞こえるだろう。
 だから高橋が臭いと睨んでいるのは内倉。それで、内倉があるかどうかを覗き込むが、滅多にそんなものはない。お稲荷さんを祭る祠がある程度。
 すると座敷牢は何処か。これは母屋の奥深いところにあるのかもしれない。できるだけ一般客が入れないような奥まった場所。これはやはり裏庭に面した部屋を座敷牢化している可能性がある。普通の部屋を座敷牢にできたはず。
 そして座敷牢には、どんな人が入れられていたのかと想像すると、何かおぞましいものが頭をかすめる。
 それは、高橋が子供の頃、悪いことをして、そのお仕置きで納戸に入れられ、出してもらえなかったことがある。大声で泣き出したので、すぐに解放されたが、それは近所まで聞こえるような悲鳴に近い声を出したから。
 それを思い出してから、座敷牢を気にするようになったのだが、そんなもの、日常的に思い巡らせるようなものではない。悪趣味に近い。
 座敷牢があった時代は、座敷童子などが出ていた時代と重なるのかもしれない。家の秘め事のように。
 
   了


2016年4月29日

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