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今田の今
未来は今にあり、過去も今にある。今田は自分の名が今田なので、今について考えたりする。これは今田ではなく、今村ならどうだろう。どちらも今の田、今の村と書く。この田は田圃の田かどうかは分からないが。
今田は今について考えるが、今村は今のことなど改めて考えないかもしれない。普通に思っているところの今と過去と未来だ。過去は懐かしく、未来は希望に満ちている。と思ったいた昔の今がある。その今が未来を通過することでそれまでの過去が書き直される。そして将来の夢なども修正される。
今村はそんなことなど頓着しないで、過去や未来については普通に考えている。立ち止まって過去や未来を思うこともあるが、それは何かが今起こったときが多い。振り返らなければいけない過去があるとか、考えなければならない先々のことがあるとか。だから今村は普通だ。
しかし今田は違う。過去や未来よりも、今について考える。しかも拘って。これは名が今田のためだ。しかし今について考えるが、田については考えない。田畑のことを常に思う環境にいないためだろう。田圃など日常範囲内で見ることはまずない場所に住んでいる。これは子供の頃から。
そのため田という具体的なものより、今という抽象概念に向かった。一方今村は今のことを思うよりも、村について思うことが多い。それは農村で生まれ育ったためだろう。
しかし、それは名が今村のためではない。今西なら、西のことを考える人になる。今川なら、川のことばかり考えている人になるが、そうはならない。
今田、今村、今川、共通するのは、今という時間概念と、具体的な場所を示したもので構成されている。
さて、その話ではなく、今田が考えている今とは何だろう。今というのはすぐに過去になる。これは誰でも分かっていることで、言うほどのことではない。
この時間、時の問題はかなり難しい。一秒後の未来は大体分かっている。それとは別に「一寸先は闇」というのがある。これは場所、空間性がある。一寸、ほんの僅か、三センチほど。だから一歩踏み出す手前でもう闇だ。この一寸先を未来と考えた場合、歩いているとき、三センチ先なので、それなりに時間がある。ただ一歩踏み出す時間はほぼ瞬間だろうが、少しだけ間がある。この間程度は、今という瞬間に入れてくれないと、今は永遠に掴めない。
これを単純に言えば、一寸前、一寸先になるが、これは「ちょっと」だ。少しという意味。これは今、考えているとき、その今がすぐに過去になるのだが、それを認識するには、三センチほど間が開く。厳密に言えば、今は捉えられないのだが、それでは話ができない。認識もできないことになる。
だから、ある程度、今の領域を作らないと今が分からないが、それは何についての今なのかにもよる。例えば昨日と今日。
ありがたいことに、「今日」には「今」が付いている。だから今日は一日中今なのだ。今日中に、というのは今のうちにに近い。ただ、「今中」とは言わないが。ただ、「最中」というのがある。何かをやっている最中。これは「もなか」だ。薄皮の中にアンコの入った和菓子の。
最中とは、中央。中心。ど真ん中。今というのは実はモナカなのだ。和菓子のモナカは座布団の型が多い。その長さは一寸、つまり三センチほど。小さい目のモナカだ。
今田はそれを発見したときモナカが食べたくなった。しかし、モナカを食べると不思議と眠くなるようだ。
了
2016年5月2日