小説 川崎サイト



日常

川崎ゆきお



「日常って、何でしょうね」
「いきなり、どうしたんだ」
「何が日常かなって、ちょっと思ったんだ」
「これが日常だよ」
 工場の昼休み、二人は土手で弁当をとっている。いずれもコンビニで買ったものだ。
「そうか、これが日常か」
「まあ、毎日やってるような繰り返しを言うんだと思うよ」
「土日はどうかな。いつもと違うけど」
「そうだね、俺なんか起きる時間も違う」
「それも日常のうち?」
「うちだろうな。特に変化はない」
「彼女が出来たら変わるんじゃない?」
「それがまた、日常になるんだ。特別なことじゃないだろ」
「そうか、慣れりゃ日常か」
「旅行なんかは、日常から離れているかもしれないなあ。年に一度程度ならね」
「何となく退屈なんだよね。この生活が」
「それで、日常の話を言い出したの?」
「そうそう」
「まあ、毎日似たような暮らしの方が平和でいいよ。変化を望まない人もいるからね」
「退屈そうだなあ」
「イベントは発生するさ。どんな日々でも」
「どんな」
「平坦な暮らしだと、花が咲き始めただけでも刺激物なんだ。イベントなんだよ」
「そんなジジイのような」
「ほら、空を見ろよ。雲の形は毎日違う。空も毎日違う」
「まだまだ、無理だな、その境地は」
「だから、ちょっとした変化を楽しむのがコツなんだ。こうして川で弁当を食べるのも、その一つさ」
「そうだね、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ変化があって気分変わっていいねえ」
「そうだろ」
「こうして食べてるとき、工場が爆発、ってのはすごいと思わない」
「それは変化のし過ぎさ」
「なるほど」
 二人は振り返り、工場の方を見た。
「無事だね」
「こんなこと、あと何十年かすると、非日常に感じられるかもしれないなあ」
「そうだね、こういう日常、永遠に続かないだろうしね」
「さあ、戻ろう」
「ああ」
 
   了
 
 



          2007年3月12日
 

 

 

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