小説 川崎サイト

 

下克上返し


 その国は山中にあr、小さい。根拠地は二つあり、それなりの城があり、城下もあるが、何しろ山の中、大した規模ではない。
 この国は大国に取り囲まれている。どの国も領土拡大を目的としており、少しでも領土を増やしたい。増やすための兵力や財力を持てば、さらに領土拡大がしやすくなるが、何処かでそれが行き詰まる。大国が中程の国を取るのは簡単だが、大国同士となると、動員兵力も大きくなり、規模が大きくなりすぎる。そして取ったり取られたりで、そこで行き詰まる。
 では、その小国はどうして他の国に取られないで残っているのだろう。大国がその気になれば、すぐにでも取れそうなのに。
 その小国は中立を守っているわけではなく、たまに遠征し、小さな村々を占領し、自分のものにしている。だから他の国と同じことだ。
 大国は当然、奪い返しに行けばいいのに、取られたまま。領土が減るのだが、大した広さではない。それは山国のため、美味しい土地ではないためだ。
 この小国、元はこの辺り一帯の守護大名で、今は小国になっているが、隣接する大国はいずれもこの守護大名の家来だった。そのため、少し遠慮があり、主家に弓引くようなことはできない。また大国の家来衆の中にも、その縁者や元家来衆が多くいるため、村を取られても捨て置いている。
 また心配なのは、この小国を取りに行くと、他の大国が動き出す。小国を守るという名分ができてしまい、さらに元主家を守るという美名分もできる。しかし、できれば大国同士の戦いはしたくない。だから、この小国は意外と生き延びている。
 それら大国よりも、さらに大きな勢力が生まれ、超大国が生まれると、小国の周囲の大国も、それほど大きな国ではなくなり、一気に飲み込まれていった。
 大勢力に刃向かった大国は亡び、見たことも聞いたこともない武将が、その大国の領主になった。飲み込まれた大国は超大国の家来になる。それしか生き延びる道はない。
 そして、あの小さな国は、いつの間にか消えており、ここも別の武将が治めている。
 ただ、小さな領主、元を正せば守護大名なのだが、都で要職に就いている。そのときは小国時代の家来はいない。しかし、山国よりも、都が似合っているのか、機嫌は良いようだ。
 
   了


2016年5月19日

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