小説 川崎サイト

 

何でお前の


 自転車で小学校裏の小径を走っていると、「何でお前の言うことを聞かんといかん」の声。村田は年寄りがいるのかと思い、金網から覗くと、小学生が数人いる。校舎と金網とに挟まれた僅かなスペースだが、非常に長い。車が一台通れる程度だろうか。所謂校舎の裏。ここで生徒を村田は見たことがない。ただ、校舎から聞こえてくる歌や、楽器の音はよく聞く。
 ここに人がいることがある。シルバーセンターの老人が草むしりに来る。しかし電動式なので、あっという間だが、その人達の声だと村田は思った。
 子供はここに立ち入るはずがない。きっと立ち入り禁止の立て札とか、ロープでも張られているのだろう。それを越えてまで裏に来る冒険家がいなかったのだろう。
 しかし村田はその場所を踏んでいる。シルバーセンターでもボランティアでもなく、小学生時代、ここは花壇で、級ごとに割り当てられた土地があった。ただし六年生だけ。
 今のように雑草が生える荒れ地ではなく、既に花壇はできていた。卒業して去った先輩達の花の園が。
 ということは、花壇が復活したのかもしれない。それで生徒の姿があるのか。
 そこで「何でお前の……」となる。その前に「あれをこっちに寄せて?」の声も聞こえていた。それに対して、「何でお前の言うことを聞かないといけない」が来ていたわけだ。
 きっと花壇を作ろうとしているのだろう。それで、廃材のようなものが転がっているので、それを脇にのけてよ、という命令になる。ところが、素直にそれを聞かない仲間がいる。
 これはリーダー争いだろうか。その命令に不満があるわけではなく、その通りでも「お前が指図するな」となる。
 命令した生徒。リーダーではないのに勝手にリーダーだと思い込んでいるのかもしれない。こういう生徒、大して出世はしなかっても、命令口調癖は直らないのだろう。
 村田はそれを聞いていて、花壇作りではなく、リーダー作りのように思えた。
 では村田がここで花壇を作っていた頃はどうか。
 リーダーなどいなかった。みんな勝手にやっていた。参加は自由で、好きな子だけがやっていた。何の手続きもいらない。十センチ四方を勝手に自分の領地にし、そこに種を蒔いたりした。
 しかし、リーダーの話ではなく、これはただ単に、この二人、仲が悪いだけなのかもしれない。
 
   了

 



2016年5月22日

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