ここで眠ってしまうと大変なことになる。藤田はそう思いながらも目覚ましを切った。これで再び鳴ることはない。
起きる気があれば寝入りはしないはずで、藤田は起きるつもりだった。そのための目覚まし時計だ。
もう三カ月もセットしていない。もし壊れていれば鳴らない。それが真面目に鳴ってくれた。故障はなかった。
藤田はそれで安堵した。だが、目覚まし時計の試験のためセットしたわけではない。起きてからの就職試験のためだ。簡単なペーパーテストで、形式だけのものだと聞かされていた。受ければそれで済むだけのことだ。難しい問題ではないが、問題はその問題ではなく、藤田の抱えている問題だった。
その問題とは寝起きの悪さだった。起きてしまうと問題はない。だが、眠いのに起きるにはそれなりに気合いが必要だった。それが藤田には欠けており、大問題と化していた。
案の定。藤田は寝入ってしまった。
「起きないと駄目ではないのか」
夢の中だった。
夢の神が現れ、藤田に起床を促した。
「起きてどうするんだよ」
「用事があるのじゃろ」
「あるけど、行きたくない」
「行かないと予定が狂うじゃろ」
「狂ってもいい」
「あんたの人生も狂うぞ」
「人生?」
「そうだ、決めたことは実行せんとな」
「決めたけど、積極的に決めたわけじゃない。決めさせられたんだ」
「じゃが、約束は守らんとな」
「そういうの、守れなかった人生もあるわけでしょ。守らなかったから助かったとか」
「起きたくないだけで、屁理屈を申すでない。あんたの目的は起きたくないだけのことだ」
「悪いか」
「それは自分で決めなされ、自己責任でな」
「それなら、このまま眠ってる」
「起きないと就職が決まらないのではないのか?」
「うるさいなあ。眠らせてくれ」
「ここは夢の中、既に眠っておるではないか」
夢の神は藤田の夢の中から立ち去ろうとしない。
「悪夢を見せてやろうか?」
「好きなようにしてくれ、どうせ夢の中の話だ」
「毎晩悪夢を見せてやろう。眠るのが苦痛になるようにな」
藤田は目を開けた。
そして、支度を始めた。
この夢は目覚まし時計を使ったとき、必ず現れるようだ。
了
2007年3月14日
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