小説 川崎サイト

 

夜行


「最近は夜行をやめたのですかな」
「大病しましてねえ。医者がよいの関係や、朝夕に飲む薬の関係もありますから、もうやめました。その時間は尻の穴、三角にして寝てますよ」
「三角」
「はい」
「見たのですか」
「いえいえ、気を抜いた状態を尻の穴三角にして寝ているというのですよ」
「三角」
「そうです」
「丸じゃなく、三角。それは筋肉の関係ですか」
「そこまでは知りませんが、寝ているので、夜行はやめました。まあ、その時間に起きておれば、やるでしょうが。ところであなた、まだ夜行しておるのですかな」
「はい、相変わらず夜中、ウロウロしていますよ。歩いているだけですから、ただの散歩なのですがね」
「分かります。深夜の散歩。これは落ち着くんです。昼間よりもね」
「百鬼夜行を見ました」
「ほう、それは素晴らしい。私も長い間、いや、若い頃からうろつき夜太とあだ名されるほど夜の街を徘徊していましたが、百鬼夜行にはお目にかからなかった。で、どんな妖怪が列をなし、歩いていました」
「その行列は似たような白い着物の人で、ただ歩き方がおかしくて、普通に歩いている人は少なかったです。妖怪じゃなく人間でした。ただ、顔や体型が少し気持ちが悪い」
「あなたそれ、死人ですよ」
「はあ」
「先頭に確か死神がいるはず」
「そこまで見ていませんが」
「まあ、死神も死人も似たような服装ですからねえ」
「死神が引率しているわけですね」
「そうそう。しかし、それは滅多に見られない」
「それは一瞬です。すぐに消えました」
「何人ぐらいの行列でした」
「二十人はいたかと」
「それは多い。纏めて連れて行くのでしょうねえ」
「なぜ消えたのでしょうか。あっちへ入ったのでしょうか」
「聞いた話では、そんなものは本当は見えない。しかし、何かの拍子で、一瞬見えることがあるらしいのです。だから一瞬だけ、そのカーテンが開いたのでしょうねえ。それですぐに閉まったので、消えたように見えたのでしょう」
「話に聞いていた百鬼夜行だと思いましたよ」
「まあ、似たようなものでしょ。もうこの世のものではないのですから」
「ま、一応報告しました」
「報告、誰に」
「あなたにです」
「私に。どうして」
「珍しいものを見たので、お知らせしないといけないと思い」
「ああ、それはわざわざどうも有り難う」
「いえいえ」
「ところであなた、御身体の方は大丈夫ですか」
「はい、元気です。まだ死神のお世話になるのは早いかと」
「じゃ、お頭は」
「頭」
「確かですかな」
「少し」
「自信がないのでしょ。だから、そんなものをご覧になられるのです」
「あ、はい」
 
   了


 


2016年6月21日

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