小説 川崎サイト

 

上ヶ原


 上ヶ原。この地名はよくある。上の方にある原だろう。地形的に上下ができている。川の上流か下流。また上はあるが下がない場合もある。上本町はあるが、下本町はなかったりする。下本町は、普通の本町だろう。それに対し、少し高い場所にあったり、北側にあったりする。
 鬼ヶ原との異名もある、この上ヶ原に対しての下ヶ原はない。下は平野だ。上ヶ原は「うえがはら」と読む。上の方にある原だが、人は住んでいない。
 上ヶ原は大きな山地の取っ付きで、平野部から見ると最初の坂だが、上ヶ原から先はただの山道で、壁のように立ちはだかる山腹にぶつかる。つまり抜けられない。山越えの道としてもふさわしくない。
 上ヶ原は小さな台地のようなもので、そこだけが大陸棚のように平。しかしそれほど広くはない。斜面を削らなくても、最初から宅地になりそうな場所だが、平野部からの坂がきつく、またその距離も長い。麓から上ってきた人は、平らな場所があるので驚くほどだ。
 上ヶ原には池がある。自然にできた池だ。今は貯水池として使われている。人が飲む水道水になる。
 ここが宅地化されないのは、鬼ヶ原伝説があるためだ。そんな伝説程度で、不動産屋が遠慮するわけではないが、宅地としての場所が悪いのだ。緩やかなスロープの道路を通す必要があるが、途中は何もない。元々麓の村人にとって用事のない場所でもある。
 山の取っ付きは今は宅地化されているが、上ヶ原までは上がって来れないようだ。
 池の畔に山荘があり、何度か建て替えられた後、大学のラグビー部の合宿所になっていた。
 さて鬼だが、この噂は学生達も知っている。体力のあるラグビー部の武者なので、鬼退治でもやりかねない。
 池は台地のど真ん中にあり、その周辺が原っぱなのだが、池の存在感が強すぎる。池が邪魔なのだが、埋めるわけにはいかない。貴重な水源のためだ。それも宅地化されない理由の一つだろう。
 鬼はこの池から出る。だから水鬼だ。合宿で寝泊まりしている学生が、窓から池を見ていると、鬼の角が浮かんだらしい。まるでネッシーならぬオニッシーだ。
 しかし、その頃は貯水池の周囲はフェンスで囲われ、鬼もそこからは出られないようだ。
 昔はこの水鬼が池から出てきて原っぱをのし歩いていたらしい。
 鬼退治の伝説は、リアルなものと繋がっている。鬼ではなく、人だ。誰かを退治したのだろう。征伐だ。
 この地方を研究している人がおり、それによると、この場所に古代王朝があったらしい。今でも解読できないような文字のようなものが岩に刻まれていたりする。これは先住民だろう。そこへやってきた新参者が、この先住民を征服したのかもしれない。それがいつの間にか鬼退治の伝説として残っている。
 今は、その大学の合宿所も廃墟となり、貯水池だけがある。周囲は原っぱ。ここはやはり先住民以外は住めない場所のようだ。
 
   了

 

 


2016年6月26日

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