小説 川崎サイト



超一流

川崎ゆきお



「一流と超一流との違いは何かなあ」
「無関係な話よ」
 師匠は相手にしない。
「一流の中でも、とびっきり優れた人のことかなあ」
「芸が優れておるのじゃろ」
「人じゃないのですか?」
「人を見ても芸は見えぬであろう」
「でも、その人の芸だから、その人のものでしょ」
「秀でた芸を身につけたということでは、その御仁の持ち物とも言えるかのう」
「私もそういう人物になりたいと思います」
「今、何と申した?」
「だから、超一流を目指します」
「うむ、目指すのは勝手じゃ」
「その方法を師匠から聞きたいです」
「わしは三流なんで、二流さえ知らぬ。まして一流などこの世の者とは思えぬ。さらに超一流となると、ありえん世界じゃなあ」
「私は思うのですが……」
「我思う、うむ、それで?」
「そればかりに集中している人ではないでしょうか」
「なるほどのう」
「他のことは目にもくれず、ただそれだけを考えて生きて行くことではないかと」
「そんな御仁になりたいか?」
「極めるとは、そういうことかと」
「それは人として病んでおるだけではないのか。人生は仕事だけが目的ではないぞ。わしのようにこの年になると、もう仕事は出来ぬ。と、いうことはじゃ……」
「何でしょう」
「仕事が出来んようになれば、そこで終わる」
「でも、元超一流の名誉は残りましょう」
「つまり、超一流と呼ばれることが目的か」
「呼ばれてみたいと思います」
「わしの弟子にしては偉才よのう」
「偉才ではなく、それが王道かと」
「まあ、勝手にするがよい」
「師匠なんですから、道筋を」
「病むことじゃ」
「はあ」
「それだけ考え、生きればよい。それが可能ならなれるじゃろう」
「師匠は?」
「わしはもう引退しておる。弟子もおまえ一人になった」
「若い頃は?」
「病んでおったのう。あのまま病んでおれば……」
「超一流になれましたか?」
「三流から二流に上がれたはず」
「どうもお疲れさまでした」
「うむ」
 
   了
 
 


          2007年3月17日
 

 

 

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