小説 川崎サイト

 

暑気あたり


 食中毒、食あたりだ。それと同じように暑気あたりがある。暑さにあたるためだ。暑さで病気になる。これは熱中症だけではない。昔は日射病と言っていた。しかし日に当たらなくても屋内でも熱中症になるので、日差しだけのイメージを取り払ったのかもしれない。
 暑気あたり、これで食中毒のように腹が痛くなったりもする。また胃腸が不安定になったりとか。これは中毒ではないが、暑いのでかき氷を食べたり、冷たいものばかり食べたり飲んだりしていると、腹具合がおかしくなる。それも含めて暑気あたりだろうか。暑いとき、バテている状態も暑気あたりのように受け取ってしまう。当然暑いさなか歩いていると、戻ってからおかしくなることもある。これは軽い日射病のようなものだろうか。
 夏風邪まで暑気あたりにしてしまうと、広げすぎかもしれないが、夏場の風邪はなかなか治らない。寒いときの風邪は暖かくして寝ていれば、何とかなるが、暑いときは寝てられない。
 寝冷えはどうか。これも夏場の病気だ。冷やすとお腹がおかしくなる。
 クーラー病というのも、体が冷えるためだろうか。または自然界にないような冷気を受けたり、喉や気管、肺に入るためだろうか。
「腹だよ腹」
「腹」
「腹を冷やすのがいけない。だから、私は真夏でも腹巻きをしている」
「いましたねえ、昔の親父なんて、ステテコの上に浮き輪のように巻いてましたよ」
「あれが良いんですよ。昔なら、さらしをぐるぐる巻いてました。腹具合が健康のバロメーター。私は腹に来ます」
「ほう」
「腹は第二の脳で、太ももは第二の心臓です」
「ほう」
「ストレスから胃腸がおかしくなるでしょ」
「はいはい」
「脳はストレスを押さえ込んでも、腹は承知しません」
「はい」
「腹には様々な生物が住んでいるのです。たまにヤクルトなどを飲むでしょう、あれは菌を入れるわけです。自分とは違う生物でしょ」
「はいはい」
「だから、腹の虫が治まらんとか言うとき、その虫とは、腹の中にいる虫なんです」
「ああ、昔、虫下しの薬を飲んだことがあります」
「マクリでしょ、苦い薬でした。学校で飲まされました。悪い虫もいますからね。サナダムシの写真を見せて、こんな長いのが腹の中にいるから、これを飲まないとだめと、脅されて飲んでましたねえ」
「そんな指導は受けませんでしたが」
「腹の虫、これが大事なんです。虫の居所が悪いなんて言うでしょ」
「それはどういう意味でしょうか」
「だから、頭では了解していても、何処か気に入らないんでしょうねえ。頭は自分です。しかし腹の虫は他人です」
「よく分からない話です」
「腹のできた人とは、良い虫が一杯いる人です」
「ああ、もう結構です。そこまでいくと」
「暑けにあたって、今日は頭に来たようです」
「はい、お大事に」
 
   了

 

 


2016年7月1日

小説 川崎サイト