小説 川崎サイト

 

出船入船


 ピンチはチャンスと言うが、引き込みの法則がそこにあるのかもしれない。そんなものは偶然だろうが、そうとは言い難い神秘事もある。
 高田はそれを感じているが、決して信じているわけではない。引き込みの殆どは因果関係がある。偶然臭くても、それが起こる自然さがあったりもする。そのため高田が感知していないだけで、しっかりと因果関係がある。というようなことを百も承知した上で、不思議な偶然を感じることがある。
 ただ、それ以上詮索しないのは、例え因果関係で成立していても、神秘事として受け止めた方が奥深いためだろう。この奥とは計り知れないという意味で、所謂人知では計り知れないことが世の中にあると思う方が、便利なときがあるためだ。絶体絶命でも助かる可能性がそこにある。実際には助からなくても何かの偶然が作用し、などと希望や期待を抱ける。
 さて、高田が感じている引き込みとは、少し話が違うかもしれないが、ものを失うと、ものが帰ってくる。出した分戻ってくる。
 失敗すれば、次は成功というわけではない。失敗のあと、また失敗がくるかもしれない。一度負けると負けが重なるようなもので、これは因果関係がはっきりとしている。
 良いことをしていると良いことが起こる。悪いことをしていると悪いことが起こる。しかしこの因果関係は壊れることが多い。悪いことばかりしている奴がずっと良い目ばかり見ていることもあるだろう。また、善人の善さんのように良いことばかりしている人なのに、いつもひどい目に遭っているとかも。
 神も仏も神罰も仏罰も、天罰もないようなものだ。
 高田が考えているのはそういうことではなく、出したら入るという程度だ。これにも法則があるのだろう。
 出船入船の法則と、高田は呼んでいる。あなた乗せない帰り船と続けると、歌謡曲になるが。
 神秘事は外ではなく、内で発生するのだろう。神秘事だと捉えたとき、それが神秘事になる。神秘事の扱いが厄介なのは、それが起こったあとで分かることで、前もって分からないことだろう。
 高田の出船入船の法則は、ただのオマケのようなものかもしれない。出船すれば入船で良いのが当たることがたまにあるからだ。
 
   了

 


2016年7月18日

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