小説 川崎サイト

 


「台風が来ているようだが」
「来ていませんよ」
「そうだったか」
「来ていましたが先週です」
「じゃ、去ったのか。まだ近付いて来ているのかと思っていた。その後どうなったのか音沙汰なし。心配していたが、楽しみにもしていた」
「台風が楽しいのですか」
「子供の頃からね」
「はあ」
「学校が休みになる」
「それはかなり接近しているとか、大きな台風か、雨が凄いとかでないと、滅多に休校になりませんよ」
「いや、昔はすぐに電車が止まった」
「はい」
「それとストも楽しみだった」
「私鉄のストですか」
「そうそう。これも休みなる」
「電車通学の子もいたんですか」
「小学校では、そんな生徒はいなかったが、先生が来られない」
「あ、はい」
「しかし、最近の台風は弱いねえ。家が丈夫になったのかもしれない。電柱もしっかりしているしね。昔からある建物も、倒れるものは既に倒れているからね」
「はい」
「梅雨はどうなった。明けたのかね」
「まだです」
「あ、そう。グズグズしているから台風に追い越されるんだ」
「春台風もありますよ」
「そうか、台風は秋だと思っていたよ」
「ところで、山田さんはどうなった。最近なかなか来ないが」
「この前、亡くなられましたよ」
「そうだったねえ。先週見かけたから、元気なら、来ればいいのにと思っていたんだ」
「亡くなられたのは半年前ですよ」
「そうか、じゃ、似た人を見ただけか」
「そうだと思います」
「ところで」
「はい」
「君は誰だった」
「あ」
 
   了


 


2016年7月22日

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