小説 川崎サイト

 

大和が沈んだ場所


 その場所が何処だか分からなくなっている。吉田が子供の頃、そこは田んぼの中にある巨大なグランドだった。一般の人は立ち入れない大企業の総合スポーツセンターのようなもので、学校の運動場の数倍はある。その向こうに大きな病院があり、この辺りでは一番高い建物だった。その病院はまだ残っており、グランドは超高層マンション群になっている。
 その場所、それは池だ。ため池だったのか、防火用水だったのかは分からない。グランドの端にあり、古くからある農道があるためか、そこだけは通れた。ただし、左右は金網などで仕切られている。池には金網がなく、そこには入れた。吉田はこの池を探しているのだ。
 これは子供時代を懐かしむ感傷散策に近いが、池がまだ残っているのではないかと、少しは期待している。ほんの少しなので、一割ほどの確率だ。なくて当然、埋められて当然。
 まずはグランドの周りを調べる。以前あったグランドよりも敷地が広くなっている。これは子供の頃見たものを大人になって見ると小さくなっているのとは逆だ。
 理由はグランドの周囲にあった農地もマンションの敷地にしたためだろう。全部の敷地がマンションになったわけではなく、グランド時代の広さのある公園ができている。昔のグランドは滅多に入ることはできなかったが、町対抗の野球や、幼稚園の遠足で入ることができた。場所的には重なるので、少しは懐かしめた。
 さて、池はそれとは反対側にある。そこは高層マンションが建ち並んでおり、その端の境界線が臭い。場所的にはその辺りだが、位置的にはマンション敷地内だろう。だから外に出てしまうと、ただの田んぼだった場所で、今は宅地だが、そこではない。すると埋められてマンションの下にあるのだろう。
 池までは田んぼの中を通り、グランドの端近くに達し、そこからグランド内の小道を行く。これが農道だった可能性が高い。右にメインのグランドや建物があった。左は池だけがあり、他の建物は思い出せない。駐車場だったのかもしれない。しかし敷地内であることは確かだ。
 吉田が境界線がどぶ川になっているのを発見する。これは農水路だろう。グランドの縁を堀のようにあったように記憶している。だから、その川沿いのグランド側に池があった。その農水路には入れない。道がないためだ。川だけが流れている。マンションと住宅地の間だ。どちらも裏側だろう。それで、池のあった場所を何となく推定できた。高層マンションの真下ということで。
 さて、その池が埋められたすれば、大和がまだ沈んでいる可能性がある。水を抜き、土で埋めたとすれば、その下に戦艦大和が。ただし地下室がないことが前提だが。
 戦艦大和。当然これは当時のプラモデルだが結構高かった。スクリューがあり、マブチのモーターで回った。プラスチックなので、火をつければ黒いススを出しながら燃える。最後の出撃というより、水に浮かべるのは最初で最後だが。
 水平に浮くように底に錘が付いていた。そのままでは倒れるためだ。そして、火を付け、燃やす。モーターを動かし、池の沖へと向かわせた。まっすぐ進まないのは言うまでもない。その後、石を投げるのだが、これは当たらないように投げた。しかし波ができ、大和は傾いた。火は水で消え、そのまま沈没した。
 その池で潜水艦も沈めた。これは残念ながら潜水しているとこを見ることはできなかった。イ号何とかという潜水艦だ。池の水が濁っており、よく見えないのだ。こちらはゴムを巻いて動いた。風呂屋で試したのだが、浮かび上がらなかった。錘が重すぎるのだ。
 他の子供も、戦艦長門を沈めたりしたので、この池には連合艦隊が眠っている。
 その上で寝ているマンション住人たちは夢にも思わないだろう。
 
   了


 


2016年7月23日

小説 川崎サイト