小説 川崎サイト

 

無策の策


「無策の策というのがある」
「何処に」
「ここに」
「どんな策ですか」
「だから、策がない」
「策というのは作戦とか、対策とか言う意味ですね」
「その策がない」
「じゃ、普通でしょ」
「そうなの」
「そんなものなしで、やっている人もいますよ。自然な流れというか、定番のようなな決まり事をそのままやれば、特に策など必要じゃないでしょ」
「そうなのか、しかし、私が言う無策の策とは」
「だから、そのままでしょ」
「しかし、これには深い意味がある。そのものにはないが、その過程にあったんだ。つまり、万策考えた。しかし良い案が思い浮かばなかった。最初から無策じゃない。何もしないで、最初から無策なのではない。ここが違う」
「はい」
「策、作戦だね。これを作りすぎて、いざ実行になると、面倒になる。その策通りやれば必ず成功するとは限らないからね。それに練りに練った策は、考え落ちになる。また実行するとき大作の策だと大層になり、やる気が失せる。策の通り、これが気に入らない。私じゃなく策がメインになり、策の言いなりになる。策に従うわけだ。これが気に入らん」
「でも、自分で立てた策でしょ。作戦でしょ。方針でしょ。対策でしょ」
「それが臭い」
「え」
「自分で作ったものはどれも臭い。それにそんな策を弄するタイミングがなかったりする。なぜあのとき、シナリオ通りの行動をしなかったのかと後悔するがね。また策を発動させる雰囲気じゃなかったとかもある」
「そうなんですか」
「それはまあ、別の問題だが、策を講じすぎると、妙なことになったりする。策の副作用。弊害だね」
「策士策に溺れるというやつですか」
「それに近いね。策と現実とは違う。その場で柔軟に対応できなくなる。そこまで考えた策は、複雑すぎて、間違いやすい。だから策はシンプルな方がいい。頭に留め置く程度のね」
「はい」
「それで私が考えた無策の策とは人より多く策を考え、考え倒し、その後、それを忘れる。使わない。そして、白紙のフリースタイルで望む。策は使わない。だから無策だが、ただの無策ではない。策を練り倒した後での無策のためだ」
「それでうまくいきますか」
「いかない」
「はあ」
「現実など読めるものではない。起こってみないと実際は分からない。それに策通り行動できないこともある。そこが機械と違うところだね」
「じゃ、最後の決め手は何になりますか」
「まあ失敗してもいいか、と思える状態で臨むのがよろしい」
「はい」
「参考になりましたか」
「なりません」
 
   了

 


2016年7月24日

小説 川崎サイト