小説 川崎サイト

 

ランチ街道異変あり


 暑い盛り、田中が毎日通っている道がある。ランチ街道と呼んでおり、その先に食堂がある。そこまでの道が暑い。だから夏場は着いたときには食欲がなかったりするためか、素麺とか冷やしうどんになることが多い。ただ素麺はすぐに腹が減るしカロリーが低いのか、身体が持たない。その食堂には冷やし中華もあるが、これはしつこすぎる。そんなことを思いながら、狭い道から大通りに出て、そこを横切ろうとしたのだが、渡れないようだ。大通りの歩道がずっと工事中で、長くかかっている。距離も長いためだろう。それで最近はずっとガードマンが立っていた。信号がないためではなく、一方通行にするためだ。それで交互に通す。ついでに道を渡る人の世話も。
「申し訳ありません。横切れません」
 と、言われ、田中は大きな道路の歩道へと曲がる。右側だと戻ってしまうので、左側。そこを真っ直ぐ行くと更に大きな道に出て、その道沿いを右に行ったところに食堂がある。ファミレスや喫茶店もあり、一寸した飲食通りだ。
 しかし、道を横切った方が日陰があり、また車は入ってこないので、歩きやすい。工場と工場の裏側に当たるのだろうか。その先は短大もあり、街路樹も豊かだ。
 田中は間違いを犯したわけではない。間違って違う道に入ったわけでもない。通れないのだから仕方がない。しかし今まで何年も通ってきた道で、それもほぼ毎日。だからランチ街道と名が付くほど馴染んでいる。そして、この道を通らないで食堂に行ったことはない。道がなくなったわけではなく、交差するとこを掘り返しているのだ。まるで踏切の遮断機のような棒が渡され、一切人が通れないようになっている。こんなことが人生にはあるのだ。
 その工事中の道、信号がないので、いつもはすぐには渡れないので、しばらく待っているのだが、その角に喫茶レストランがあった。本当なら、この店でランチとなるのだが、閉店して数年になる。外装はそのままで、今は倉庫か作業場になっている。レストランの主は健在だが、かなり年だ。店が入っているマンションのオーナーでもあるので、食べることには困らないのだろう。たまに見かけるが、白髪頭を後ろで括り、髭を生やしている。
 だから、本来なら道を渡ってその先の食堂へ行く必要はないのだが、それは仕方がない。
 それで炎天下の熱風、排気ガスの熱風を受けながら、道路沿いの狭い歩道を通り、やっと大きな交差点に出た。あとはその道沿いの歩道を進めばいい。流石に歩道の幅も広い。いつもの道沿いでは工場の裏側だが、こちらでは表側になる。
 そういう工場や、短大への抜け道のような道を越え、更に進むと家電店があり、その先にコンビニやファミレスや牛丼屋の看板が見えてくるはずなのに、ない。
 ないわけがない。あるはずだ。その隙間に安い食堂がある。大衆食堂だ。田中が毎日のように食べに来ている店だ。それもない。
 いつもの道だと、短大前を通過して、その次の小径を左に入れば、幹線道路沿いに出て、食堂に出るのだが、その小径もない。
 更に進むと殺風景な場所に出る。大きなマンションでも建つのか、フェンスがずっと続き、上空には巨大なクレーンが聳え立っている。
 田中は道を間違えたのではなく、知らないうちに通り過ぎていたのだ。いつもの入り方と違うためだろう。
 
   了

 

 


2016年8月1日

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