小説 川崎サイト

 

ススキが原のカッパ


 ススキが原にカッパが出るという噂が拡がった。しかしそんなものはニュースになるわけがない。拡がったのは口コミ。
 ススキが原という地名や呼び名は他にもあるかもしれないが、ここではない。一級河川の河原にススキが生えているためだ。土地の人も、ここをススキが原などとは呼んでいない。
 確かにススキはそれなりに背が高いので、大人でも身体が隠れてしまうだろう。これが刈られ、芝生やグランドになっていれば、何かがいてもすぐに分かる。小さな虫なら別だが。
 だから、最初はカッパがいそうな場所という程度。それがいつに間にかカッパがおり、場所もススキが原となった。ススキが生えている原っぱのようなものだが、ただの河川敷で、雨が降れば、原っぱもなくなったりする。また河原の幅もそれほど広くはない。下流は公園化されているが、上流側のススキが原辺りは、そのままの野生を保っている。
 ススキが原でのカッパ探し。これがイベント化した。実際にはそれが終わってからの飲み会がメインだ。十人近く集まったが、誰一人カッパがいるとは思っていない。ただ、いそうな場所ではある。場はあるが、中身がない。
 カッパに興味のある人には共通する特徴があるのかもしれない。全員眼鏡を掛けている。そして日焼けさえしていなければ青い顔。実際には色白で、面の皮が薄そうな人達。背は高い方で、全員痩せている。
 探索後の飲み会がメインのはずなのだが、無口な人が多い。だから手酌で一人で飲んでいる人の方が多く、テンションはお通夜ほどには低くはないが、静かな団体さんだ。
 この定例会、十人を超えない。噂を受け取った絶対数が少ないのと、それ以上伸びないネタのためだろう。来る人は全て来てしまった。
 悪いことに、その日の定例会は真夏の炎天下。その状態で日陰のない河川敷を移動するのは、想像以上に厳しい。それこそ頭の上の皿の水も蒸発してしまう。だからこんな季節はカッパなど出ないだろ。いても川の底の涼しいところで寝ている。ただ、カッパの呼吸器官が問題だ。
 探検隊は期待していたススキの日陰がないことに落胆する。それほど背が高くないためだ。それに遠くから見ているほどには密度はなく、簾よりも粗い。それでも座り込むと、それなりに日除けになる。
 あとは暑さ対策のサバイバルゲームのようになり、河原ではなく土手の向こう側に日陰があることが分かり、そちらへ移動している。
 普段、外に出ない人も、この日は太陽を浴び、顔が赤い。これは火傷に近い。
 そして、火照った身体で、最寄りのバス停から駅まで戻り、いつもの座敷のある飲み屋で打ち上げとなる。このとき飲むビールが最高らしい。
 イベントはここからが本番で、河童の話ではなく、イタチやアライグマ、テンの話などが始まる。決して盛りあがらないのだが、ツチノコ探しの話で、その日としては最大に盛りあがった。しかし、ひそひそ声に近い。大声を誰も出さないのは、大人げない話なので、それを自覚しているためだろう。
 当然お運びさんが入ってくると、通夜のように神妙な顔で黙り込んでいる。これは黙祷に近い。
 似たような雰囲気の人達が一堂に集まっている姿は、少し異様だ。
 カッパは実際にはいないのだが、この人達がカッパの面影を残しているのかもしれない。そういう目で見ると、全員カッパに見えてくる。
 
   了

 

 


2016年8月6日

小説 川崎サイト