小説 川崎サイト

 

闇のお盆道


「今年のお盆は暑いですなあ」
「そうですねえ。いつもなら、この頃から涼しくなるのですが」
「当分、この暑さは続くようですよ」
「異変でしょうか」
「さあ、とんでもないほど暑い夏じゃなかったけど、長引きそうですよ」
「何が」
「だから暑さが」
「ああ」
「いつもなら、お盆の頃の日差しが好きでしてねえ」
「暑いですよ」
「そりゃまあ、暑いことは暑いですが、日影とのコントラストがいい。濃い闇ができています。日影だけ、まるで夜のように」
「そうは見えませんが」
「いや、お盆の時期だけです。そう見えるのは、盆が過ぎると、その闇も薄くなります」
「ほう」
「これを盆の闇と呼んでいます」
「誰が」
「私がです」
「はい」
「お盆は先祖が帰って来ます。だから、そんな闇ができるのでしょう」
「どうしてですか」
「ご先祖様は昼間、外に出ない。また、帰って来るのも戻るのも夜になってから」
「はいはい」
「それで、昼間帰ってくる霊は日影を歩く。それがただの日影ではまだ明るい。だから夜のような暗さが必要なんです」
「それは何かの言い伝えですか」
「いえ、私が考えました」
「あ、はい」
「迎え火で戻ってきたご先祖さんだが、二泊ほどするのでしょうかねえ。送り火まで間がある。当然昼間も。だから、家の中でじっとしないで、散歩に行く人もいる。そういう人が移動しやすいように日影があるのです。また、この頃、真夏に比べ、影は少し伸びています」
「じゃ、日影のある通りじゃないと、無理なんですか」
「暑いし、眩しいんだろうねえ」
「はい」
「それで、お盆の間だけ日影が闇のように濃くなるということです」
「はい、よく分かりましたが、それより、今年のお盆は暑いです。日影があっても」
「ないよりましでしょ」
「そうですねえ」
 
   了
 
 

 


2016年8月18日

小説 川崎サイト