小説 川崎サイト

 

土地の神様


「土地の神ですか」
「そうです」
「それを調べておられると」
「そうです」
「土地の神って何でしょう。鎮守の森の神様のことかな」
「村の神様ではなく、村ができる以前からいる神様です」
「ほう」
「しかし、それは誰だか分からない。だから、家を建てるとき、地鎮祭をしても、土地の神様が分からないので、祭るべき神が分からない。それでも必ず地鎮祭はする」
「それで土地の神様を調べておられるのですか」
「その殆どは名がない。土地の神様と言うだけ。名がある方が逆におかしかったりする。その地の神社の御神体が土地の神になることもある」
「なぜ地鎮祭をするのでした」
「ああ、土地の神様は領主のようなものだ。持ち主。元々は神様の土地。そこを自分の土地にしたり、そこに住むとなると、挨拶が必要だろう。挨拶がなければ、怒って、ろくなことにはならない。勝手に人がそこを占領するようなものだからね」
「挨拶だけでいいのですね。それだけで済むのですか」
「ああ、簡単でしょ。特に反対はしないようです。挨拶をしないと、祟ったり怒ったりする。それじゃ住めたものじゃない」
「その土地の神様を調べているのですか」
「ああ、土地の神だけに、土地土地にいるようだが、その範囲が分からない。おそらく地名の一番小さな呼び名ごとにおられるのかもしれないが、曖昧だ。地名のない場所はないが、それは人が付けた地名。これで区切るしかない」
「はい」
「地神とはまた違うのですか」
「地神とは氏神のようなもので、一族単位。土地とは関係はないが、長くその一族が住み続ければ、土地の神と混同しやすくなる。まあ、そのときの地神は大概は村の神、村の氏神様として鎮守の森に祭られておる。土地の神とはそれではない。村ができる前からいる」
「地霊のようなものですか」
「それに近い。地神とは管轄が違う」
「はい」
「土地の神、これを島の神と言い換えれば、分かりやすい。区切りがいいからな」
「はい」
「地神や氏神とは違うのは、同じ村に複数の氏神がいたりする。出自、氏が違うためだ。今なら、もっとばらばら。新興住宅地などがそうだろ。だから村の神様では括れない。また村などなかった場所にできた町も多い。埋め立て地もそうだ。だから、この土地の神様は便利なのだ。地面さえあればそこにいる。海底にもいるかもしれないが、そこは海の神の領域となる」
「では、土地の神とは何でしょう」
「土地によって水が変わる。それに近いかもしれない。君の言うように地霊に近いかもしれないねえ」
「はい」
「形もなく姿もない。名もない。土地の神様とだけでは名前とは言わないだろう。しかし、挨拶をしないと祟る。怒り出す。分かっているのはこれだけ」
「その土地の親分のようなものですねえ」
「神というのは祟る」
「地鎮祭などしないで、掘っ立て小屋を建てて勝手に住んでいる人もいますよ」
「自分の土地ではないだろう。それに野宿に近い」
「ああ、はい」
「その土地の神様、かなり古そうですねえ」
「しかし、今も健在。地面に何かを建てるときは、建物でなくても必ずやっている。ここに日本の神様の秘密があるように思う」
「はい」
 
   了


2016年8月21日

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