小説 川崎サイト

 

古代史の謎


「ほう、古代史がお好きで」
「いえいえ、ちょいと囓っている程度で」
「古代史も広いですが、どの時代ですか」
「古ければ何でもいいのです」
「それはどうしてでしょうか」
「起源が分かります」
「ほう、起源、我が国の起こりとか」
「歴史を覆すような仮説もあります」
「これまで習ってきた歴史とは違うと」
「そうです。消された歴史などが分かってきたりしますとね。しかしこれは推測です」
「それだけですか」
「え、何がですか」
「古代に興味を示されるのは」
「実を言いますとね、大宇宙でもいいのです」
「どういうことですか」
「古代の歴史が覆されても、私達の日常の暮らしには何の関係もありません」
「まあそうですが」
「それよりも」
「はい」
「現実逃避です」
「え、古代へ逃げるのですか」
「そうです。そこは別世界です」
「所謂古代ロマンの世界ですね」
「もうファンタジーです」
「はいはい」
「趣味というのはそういうものですよ。別世界を持つことです。それはかけ離れていても構いません。宇宙を調べるのも、古代を調べるのも、似たようなものです。私にとってはね。その間、旅立てます。煩わしい現実から離れられます。そのため、現実が上手く行っているときは、旅立たなくてもいいのです」
「そうですねえ、趣味とか娯楽とかは、そんなものですよね」
「そうでしょ」
「それで、古代ロマンは如何ですか。何か謎が解けましたか。新しい発見がありましたか」
「ありましたが、私の将来とは何の関係もしない。給料も増えない。それより減っています。このままじゃ立ちゆかない。まあ、そんな現実を見るのがいやで、古代史へ逃げ込んでいるのですがね」
「何か面白い話はありませんか」
「だから古代史が面白いです」
「古代史の中で、これはと言う面白い話とか」
「ああ、話してもいいのですが、長くなります。歴史にはまた歴史があり、その歴史にはさらに歴史があります。それらを知った上でないと、説明不足になります。だから面白さも伝わりにくいのです」
「聞きましょう」
「この国は古代ムー大陸から来た人々により……」
「ああ、もう結構です」
 
   了

 


2016年9月6日

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