小説 川崎サイト

 

煮物と掃除


「一つのことより、二つのことを同時にやっている方が効率が上がります」
「時間を一方に取られて効率が悪いのでは」
「おかずを煮ています」
「え、何を」
「おかず」
「ああ、ご飯の」
「そうです煮物です。これを煮ているとき、実は手は空いている。煮えるのを待つだけ、たまにかき混ぜたりしますし、また焦げ付かないように、そばにいる必要がありますが、そんなにすぐには焦げ付かない。だからこのとき、他のことをするのです」
「私も煮物をしますが、その前で待つのは何なので、茶の間でテレビを見ています」
「見たい番組ですか」
「いえ、待ち時間、暇なので」
「そのとき、洗い物をしたり、部屋にあるゴミを集めたり、または軽く洗濯をしたりするのです」
「いえ、煮えるまで一休みがいいです。テレビを見なくてもいいので、ぼんやりしている方がいいです。掃除は掃除でまたやります」
「しかし、掃除をするときですが」
「え、何ですか」
「掃除をするにはきっかけが必要でしょ。さあ、今から掃除をするぞと」
「そうですねえ。毎日やっていませんので、散らかったりすると、そろそろかなあと思いながら、なかなか実行できません」
「そこです。私の言う二つのことを同時にやるのは」
「はあ」
「煮物のついでに掃除をする。掃除だけではなかなか決行できないのでしょ。しかし、ついでのオマケなら軽い。手を出しやすい。それにメインは煮物、掃除じゃない。ここにトリックがあるのです。掃除をしないといけないという気持ちではなく、何かついでにやることがないかと探していると、掃除が出てきた。しかも煮物の合間です。一寸だけすればいいのです。まずは手を出すこと。一度出すと、流れができます。最初のきっかけ作りが大事なのです」
「ほう」
「掃除をしているときは煮物がサブになります。たまに見に行けばよろしい」
「分かります。やってました」
「たとえば」
「はい、トイレへ行くとき、ゴミなどを拾いながら行くのです」
「それそれ」
「そちらへ行く方向で用事がないかと探します」
「そうなんです、ついでにやる。これが結構いけます」
「それであなたは正義をやりながら悪をやっていたのですね」
「いえ、悪をやりながら正義をやっていたのです」
「相反することを同時に」
「正義だけでは飽きるでしょ。悪だけでも。一方だけをやっているより、効率がいいのです」
「そこまで拡大できません」
「拡大しながら縮小する」
「ほう」
「これは相対性理論です」
「本当ですか。おかずと掃除が相対性理論で」
「嘘です」
「はいはい」
「真実を言いながら嘘も言う」
「難しい人だなあ」
「普通でありながら異端」
「もう結構です。友達、減りますよ」
 
   了


2016年9月15日

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