小説 川崎サイト

 

佐伯社中


 地下鉄下刈谷駅は当然道路の下。幹線道路が走っている下にあるが、この大通りをさらに下へ行くと小汚いビルが並んでいる。そのビルとビルの隙間から鳥越神社へ出られる。参道は最初からない。かやぶき屋根がトタンになってから久しく、その後放置状態。実は普通の神社ではなく、個人が勝手に建てた社。元々はこの辺りの地主の屋敷内にあったのが、市街地となり、今ではビジネス街。普通の民家さえ建っていない。
 きっと大百姓か庄屋の屋敷だったのだろう。当然そんなものは一切消え、小さなビルがひしめき合っている。ところがこの神社だけは残った。残したのだろう。
 その神社の周囲、多少の余地があり、椅子がいくつか並んでいる。事務机や回転式でクッションが頭部まである豪華な椅子もある。いずれもオフィス仕様だろう。そして誰が置いたのか自販機まである。
「働くのが嫌でねえ」
「そうですねえ。やりがいもありませんし」
「また転職ですか」
「はい、転職が天職のようなもの。どの会社へ行っても働く楽しさがない。まあ、仕事はどれも辛いものですが、それなりにやる気も起こるもの。達成感のようなものですか。そう言ったものが最近の会社には微塵もない。まるで社員も会社も自販機のようなものですよ。機械的で人間味がない。これじゃ自販機のような働き方になる。それじゃ面白くない。まあ、仕事に面白さや楽しさを求めちゃいけないのですがね。給料をもらうためだけの働き方になる。しかし細かいことまで管理され、まるで囚人だ」
「はいはい、首から名札をぶら下げるようになってからだめですねえ。これは犬の首輪だ。鑑札。予防注射してあります、のようなね」
「こういう神社のような曖昧なものが恋しいです」
「え」
「だから、この何かありそうな奥行きのあるね」
「ああ、まあ、神様が一応いますからね。何を祭っているのか知りませんが、鏡が置かれていますよ」
「中には入れないものでしょうかねえ」
「鍵がかかっています。無理です。それに見たところ、何もない。それに神社にしては小さいです」
「よくこんなものが残っていますねえ」
「神社と会社は似てますよ。どちらも社が付く」
「また一人来ましたよ」
「ああ、佐伯さんだ。またサボりに来たのでしょ」
「我々で社中を作りませんか」
「社中」
「会社ですよ」
「佐伯さんはベテランのフリーの営業マンです。あの人を頭にして佐伯社中と名付けてはどうですか」
「何をする会社ですか」
「いや、ここで集まるだけですよ」
「あ、そう。それもいいねえ」
 この佐伯社中、人数が増え、お神輿が出るほど発展した、という話はない。
 
   了



2016年9月17日

小説 川崎サイト