小説 川崎サイト

 

道を変える


「少し違ったことがしたければ、違う道を行きなさい」
「いつもとは違うことをしたいのですが、なかなか踏み出せません」
「だから、違う道を行きなさい」
「だから、それがなかなかできなくて」
「簡単でしょ」
「そうなんですが、決心が」
「決心するようなこと、考え込むようなことじゃありません。違う道、別の道を行きなさい」
「どの道がいいのかも、まだはっきりとは」
「そんな深刻な問題でありません。通る道です」
「誰でも通る道ですか」
「そうです。誰でも通れます。私道でなければ、または人様の敷地じゃなければ」
「道って、その道ですか」
「そうです」
「でも、それはいつもとそれほど違ったことにはなりませんが」
「ところがあなた、そうじゃないのです。いつもの通り道、少しだけ変えてみなさい。風景が変わります」
「確かに変わりますが、特に凄い風景では」
「別の風景の中にいるとき、あなたのいつもの道沿いの風景はもうないのです」
「あります」
「しかし、あると思っているからでしょ」
「ありますよ。消えてなくなるはずがありません」
「しかし、別の通りを行くとき、いつもの道はもう見えない」
「まあ、そうですが、それでもありますよ」
「やってごらんなさい。それだけで世界が少し違ってきます。ここが大事なのです」
「そんな簡単なことで変化があるのですか。確かに風景は変化しますが、僕はそれほど変化していません」
「ここからです」
「はあ」
「ここからあなたの世界が変わり出します。まずは新鮮な気持ちになるでしょう。一寸道を変えただけで、新たな体験が待ってます」
「そんな大層なものじゃないです。少しだけ見るものが違うだけで」
「その小さな変化が影響を及ぼすのです」
「その道で何かを発見するとか」
「それもあるでしょうが、それはどうでもいいようなことでしょ」
「そうです。いつもの道とそれほど違わないし」
「通り道を変える。この簡単なことが、あなたに変化をもたらせます」
「しかし、道が変えた程度で」
「しばらくやってみなさい。分かります」
「何が」
「新たなこと、これは何かは知りませんが、始めやすくなります」
「道を変えることと、僕がやりたいこととは別問題でしょ」
「どちらもあなたの世界です。だから共通しています。あなたが関与しているからです」
「それはどういう原理なのですか」
「原理など知らなくてもいいのです。変えるということが大事なのです。これは何でもよろしい。通り道でも、行きつけの店でも、衣服でも」
「まだ、理解できません」
「ずっと同じことばかりして、変化のない人は、服装も変化がないでしょ。そこにヒントがあります」
「何でしょう」
「流れです」
「流れ」
「変える癖が付きます。すると、変えやすくなる。道でも、大事なことでも」
「しかし、大きな変化は望みません」
「その望み方も、変化します」
「分かりました。簡単なことです。一寸違う道を通るだけで済むのなら」
「道を変えたとき、いつもの道は消えます。いつもと違うことをしているわけですからね。それだけでもあなたの世界は違ってきますよ」
「風が吹けば桶屋が儲かるような話ですね」
「まあね」
 
   了

 


2016年10月11日

小説 川崎サイト